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野狐の足元には朱墨で地面に曼荼羅が描かれている。野狐の足を捉えた高僧が、朗々と何かを唱え始めた。なんとか動こうと野狐がもがく。じりじりと後退り、庭の桜に追い詰められた。
白蛇が、高僧の仲間の一人に絡みついて締め上げているが、妖したちの劣勢は覆らない。
高僧は顔色も変えず、野狐を捕縛する経を唱える声に揺るぎはない。
御簾の奥に女がいた。この騒ぎに逃げ遅れたのかもしれない。女が孕んでいることが、野狐には匂いでわかった。
狐火を出せれば、あの女を人質に取れる。
足元の朱曼荼羅と経に縛られながら、野狐は右手に意識を集中させ、狐火を放つ。
野狐の妖力を込めた狐火が女を取り巻いた。高僧に向かって
「その女の子供を、妖しとして道連れにしてやるぞ。俺の縛りを解け」
「かまわぬ、妖しの力を持って産まれたならば、儂が人として育てよう」
高僧が素早く懐から取り出した球を女に投げた。
「その球を拾え。我が子を妖しにしたくなければな」
御簾から女が手を伸ばし、球を拾う。
野狐の狐火は女をさらに強く炙った。野狐が全力で狐火を放出する。
「俺を封じたとて、その子供の子孫が俺を解き放つだろう」
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