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夜が明け、焼け跡に残ったのは、桜の木のみであった。
荒代が桜の根元に跪いた。
「野狐、時定さまが封じられた、この桜と、時定さまの香気を宿した赤子の子孫を見守り続け、時定さまを解き放つまで、今宵のことは妖狐の一族で語り継ぎましょう。幾世代にも、桜守りとして、大切に」
荒代の声に、桜を囲んで妖狐たちが首を垂れた。
桜の木に時定として封じられてまもなく、子を連れた高僧が焼かれた館跡地に寺を建立した。
時定の香気を宿した赤子の子孫と、桜の木を妖狐たちが代々、守り抜いた。
時定は長い年月、春の桜に囚われ、自由を夢見るうちに時代は流れ、およそ千年を経ていた。
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