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第三話「子狐に名を送る」
時定が穂澄から額を離す。
「腹の赤子まで人質に取る俺が、怖いか」
「いまは……怖さは感じません」
穂澄は思ったままを口にする。
「そうか。穂澄に、害を及ぼすつもりはないからな」
穏やかに時定が言う。穂澄がふと目を障子にやると、子狐たちがこちらの様子を、心配そうに伺っている。
「気になるか?」
穂澄の目線を追って、時定が
「あの子狐たちは、まだ妖力が弱く人の形をとれない。だが、人語は解するし、話せる。穂澄のよき話し相手になるだろう。大人の狐たちはもうこの寺の修繕のために働いているぞ」
「えっ……?」
「穂澄以外の僧たちは皆、ここから逃げたからな」
「え!」
「本当かどうか、見てみるか? 起きられるなら、だが」
時定の言葉に、居ても立っても居られず、穂澄は立ち上がろうとした。じくじくした痛みがまだ左肩に残っていて、思わず顔をしかめて、傷口を押さえた。
「まだ無理なんじゃないか」
「いえ、この目で確かめます」
穂澄は強情を張って、仏殿まで時定の肩を借りて見に行った。酷い有様だった。
打ち壊され焼かれた仏像が庭に落とされている。床も剝がされて、穴が開き、壁の一部も板を外されていた。
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