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言うが早いか子狐は青絣の着物を着たわらべの姿に変化して見せたが、耳と尻尾をしまい忘れている。ふさふさの尻尾が背後で揺れていた。
「我は、そいつらとは違うぞ!」
と他の子狐たちを見回しながら
「我は変化も完璧だ!」
胸を張るが背後の尻尾が愛らしい。
穂澄はその姿に一目で胸を射抜かれて
「名を教えてください」
胸をそらしている子狐に聞いていた。
するとわらべの姿で、顔を真っ赤にして困ったように俯いてしまった。
「我は……我の名は……まだ、ない」
「そう、ですか。では私が君に名を送ってもいいですか」
「名をもらってやっても……いいぞ……」
小さく答えてくれた。
穂澄は少し上を向いて思案した。
「真代(ましろ)と、いうのはどうでしょう?」
子狐は驚いたように目を開いて、それから泣きそうな顔で頷いた。
「気に入らなかったら別の名を考えますが」
「違う……気に入らなかったんじゃない! うん、我は、真代だ!」
潤んだ目で子狐が、真代がまっすぐ穂澄を見た。
「我は真代だ」
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