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「問題を咀嚼して飲み込み、感想を友達と語り合う。それが正解か不正解かなんてどうでもよくて、その時間自体に価値がある」
「で?」
「先生だってわかるでしょ。ハンバーガー食べた後の包みを綺麗に折るタイプじゃないんですよ私は」
「で?」
「ポテトは高いから食べたくても我慢しますけど、せめてチーズバーガーくらいの贅沢は許されると思いませんか?」
「……それがどう校長室の話しにつながるんだ?」
「え? これでお終いですけど」
「わけがわからん」
「では他の例え話を」
「やらんでいい」
人差し指と中指で眉間を押さえている先生に、大人は大変だなと日頃の苦労を心中で労う。教員なんて成り手が不足しているブラックの鏡だろうに。
「それに、母は私のテストなんかに興味はないんです。100点でも0点でもどうでもいい。受けても受けなくても同じ。あの人が興味あるのは、弟だけなんですから」
「そのお涙頂戴エピソードならよそでやれ」
「……ちっ」
なぜかもう引っかからなくなっている。そんなに手の内は見せていないはずなのにどうしてこんなにも早くばれてしまっているのだろうか。
「はぁったく、お前という存在自体がこの学校に有益じゃないんだよなぁ」
「過大評価身に余る光栄です」
「これでも過小評価なんだけどなぁ」
「先生激辛ですね」
レベル7くらいの辛さだ。つまり暴力的ということ。
「これは俺個人の感想だがな。ハッキリ言うとお前にはカビが生えている」
「うわひっど。教師の鏡みたいな発言ですね」
「よく言われる」
「まぁ否定はしませんけど」
例えば蜜柑なら、カビの広がりを防ぐためにすぐに取り出され処分される。空気中を舞って感染しないよう、空気を通さない袋に入れられる。
そんな感じに扱われている自覚はあった。きっと将来は社会から断絶されることを余儀なくされて、独りで生きていくのだろう。ここまでイメージできる私マジ大人。
「そこでだ、お前ここに興味はないか?」
先生は机の中から数ページ程度の冊子を取り出し、私の方に向きを変えて差し出してくる。
書かれていた高校の名前に思わず眉をひそめてしまう。そこは県内でも有名で有数の進学校。ここからは少し遠いが、ここ目当てに県外からの受験者も多く、寮は完備していることは知っている。
何より、母親が通っていた学校と肩を並べる偏差値を持つ、限られた高校の一つだった。そして、母親が通っていた学校の付属中学には弟が現在通っている。
「今からでも十分に合格圏内狙えるし、何よりここに合格できればきっと——」
「無理ですね」
もう何度も見ているそのパンフレットを丁寧につき返し、丁重にお断りをする。
「難なく合格できますが、あの人がその程度で今更変わるとは到底思えませんし、大きなお世話です辞めてください今後一切こういうのは」
首筋に汗が垂れるのを感じる。ゴーっと教室内の暖房がうるさく稼働しているのが急に耳障りに思えた。
「そうだ、私、他の人の顔が果物に見えるんです」
まだ誰にも明かしていないし、なんなら明かすつもりもなかったことを先生に伝える。一刻も早く話題を逸らすことができて、かつ軌道修正されないような話題を提供できるのなら、別にこれくらいのことをカミングアウトしてもいいって思った。
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