プロローグ

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プロローグ

「澪って仕事は出来るのに、本当男を見る目がないよねぇ」 「玉ちゃん、相変わらず直球過ぎてキツいね…」 あはは、と乾いた笑いが出てしまう。 グサっと刺さるような発言をしたのは、同期の玉ちゃんこと玉井玲奈。社食のカレーライスをもぐもぐと咀嚼しながら、憐れむような生温かい視線を私に向けている。   ここは都内にある、ホテル・ザ・クラウン。開業50周年を迎えた、国内きっての格式高いホテルだ。国内外からのファンも多く、過去には「クラウン流・おもてなし術」といった書籍も出版されている。 そんなホテルで、私、倉田澪は、客室課の正社員として働いている。 今日は早番で朝7時から勤務していたが、遅番のスタッフと引き継ぎも終わったので、少し遅めの昼ご飯を食べていた。そんな時にちょうど、同期の玉ちゃんが居合わせたので、最近彼氏と別れたことを報告した所だ。 「だって澪の彼氏って、売れないミュージシャンじゃなかったっけ?」 「うっ…しかも、三股してたというね…」 「本当信じられない!!ヒモじゃない、ヒモ!」 「ごもっともです…」 「澪って弟さんの面倒見てたからか、彼氏にも『お母さん』みたいになっちゃうって言ってたよね……」 「弟のせいではないと思いたいけど、うん…でも毎回そうなっちゃうんだよね」 玉ちゃんの指摘には、ぐうの音も出ない。
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