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オフィスビルの中層階。窓から差し込んだ光が中を照らす。
黒いレディーススーツに身を包んだ若い女性が、震えながら来客用の会議室に入ってきた。ロマンスグレーの髪を撫でつけた壮年の男が笑顔で迎える。
「ようこそ弊社の面接にお越しくださいました。どうぞおかけください。」
「きょ、今日はよろしくお願いします。」
ブルブル ブルブル
「どうか緊張なさらず。声が震えてるようですよ。」
「い、いえ。これは緊張ではないんです。」
ブルブル ブルブル
「おや。お寒いですか?空調はきかせてるつもりですが、今日は冷えますからね。それとも体調がよろしくないのか。」
「そ、そうではないのです。」
ブルブル ブルブル
「左様ですか。問題ないようでしたら予定通り面接を始めさせていただきますが、よろしいですか?」
「え、ええ。よろしくお願いいたします。会いたくて震えてるだけなので。」
ーーーーーーー誰に?
湧いた疑念に駆り立てられて履歴書と女の顔を見比べる。
まさか、と男の脳裏に一夜の過ちの記憶がよぎった。
夜の街で知り合った女。妻子ある身ながらも酔った勢いでの火遊び。
あの時の女に、似てる。
ベッドでの語らいで何の気なしに話してしまった身の上。
大企業の人事部で勤めている。面接官を担当している。応募したらまず俺が担当するだろうね。
そんな話をしてしまった。酔ってて詳しくは覚えてないが・・もしかしてその時、会社の名前まで?
ーーーーーーーこの女、俺を追ってきたのか!
その執念に恐怖し、男はガタガタと身を震わせた。
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