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老若男女問わず、ドラえもんの中でもこの“どくさいスイッチ”が出てくる話は有名らしい。
あらすじはこうだ。
野球の試合で大失敗したことで、ジャイアンに非難されて殴られるのび太。ドラえもんは“もう殴られなくて済むように練習しよう”とのび太を誘うものの、のび太は“悪いのは(自分が下手なことではなくて)ジャイアン個人だ”と考え、“どっかに引っ越していなくなってくれないかな”と言う。
するとドラえもんは、“そんな風に考えるの”と色の無い声で告げて、のび太にある道具を渡すのだ。それが“どくさいスイッチ”。その名の通り、独裁者になれるスイッチである。
そのスイッチを押すと、嫌いな人間をこの世から抹消できてしまうのだ。ジャイアンに消えて欲しいと願ったのび太は、ジャイアンという存在をこの世から消してしまう。さらには、ジャイアンに代わっていじめっ子に変貌したスネ夫のことも消してしまう。最終的にはイライラのまま、この世のありとあらゆる者達を消してしまい、一人きりとなった孤独に耐えきれなくなって嘆くことになる。
そこに、消えたはずのドラえもんが現れて、こう告げるのだ。
『気に入られないからってつぎつぎに消していけば、きりのないことになるんだよ。わかった?』
実はこのスイッチは人を抹殺するためのものではなく、独裁者を懲らしめるためのものだった、というオチ。
怖い話であると同時に、子供達への教訓ともなっている深い話でもある。なるほど、道徳の教材としてもってこいなのかもしれない。
先生としても多分、期待しているのは“気に入らないからって誰かを消そうだなんて簡単に考えてはいけないと思いました”とか、そういう良い子の答えを待っているのだろう。問題は。
「そんな簡単に考えられないよう」
はあ、と私はため息をついた。放課後、親友のスズメちゃんの家に直行した形である。スズメちゃんも、私が乗り込んでくるのはわかっていたのだろう。苦笑いしながら、部屋に上げてくれたのだった。
用件などわかりきっている。私が、作文が壊滅的に苦手だからだ。文章が駄目というより、ぐるぐる考えすぎて一文字も出てこなくなるという理由である。
ドラえもんは好きだし、例のアニメ(ちなみにリメイク版ではなく旧版を見せてくれたのは、先生が昔のバージョンの方が馴染み深いからという理由だったらしい)も面白かったと思うのに。
「だってさ、誰だって嫌いなやつはいるじゃん?いなくなって欲しいって思うのは普通じゃん?のび太はうっかり寝ぼけてスイッチでみんな消しちゃったけどさあ……ほんの一部の人だけなら消してもいいって思うの私だけ?」
「あーね。ムカつく奴いるもんね」
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