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「そうだよー。人いじめてばっかの男子とか女子とか?すぐ大声で人を怒鳴る先生とか?SNSでちょーっと顔出ししただけでぎゃーぎゃーうるさく注意してくる大人どもとかさあ。あと、Twitterでクソリプしてくるやつはみんな消えればいいと思うんですけどー」
「まあねえ」
こうして考えると、いなくなってしまえと思う相手は少なくない。残酷な考えだとか、そういう人達にも大切な家族はいるんだよとか大人は言うかもしれないが、そこまで理性的に考えられるほどこちとら大人でもなければ優等生でもないのだ。
嫌いな相手を消す理由なんて、“相手がムカつくから”で十分なのである。
ましてやそれがスイッチ一つでできるとなったら――しかも、私の犯行だとバレないとなったなら。やってしまいたくなる人は、たくさんいるのではないか。
「あたしだって、優等生じゃないよ。ゆまちゃんの気持ちは分かるっていうか」
スズメちゃんは、原稿用紙を広げながら言う。ちなみに彼女の作文は、既に一枚半が埋まっていた。あと半分書けば完成である。授業の短い残り時間でここまで埋めただけ彼女は立派ではなかろうか。
「ただ、さっきのアニメであたしは別のこと思ったかな。つまり……嫌いな人を消しても、誰か別の人がそのポジションになりかわるだけなのよね。だから、ジャイアンがいなくなったら、今度はスネ夫がいじめっ子になっちゃったじゃない?ジャイアンがいた時は、いつもジャイアンに媚び売ってるだけの小悪党ーってかんじだったのにさ」
「まあ、だから嫌いなヤツを消していってもキリがないって話なんでしょ」
「うん。ていうか、そういう風に世界が動くってことなんじゃないかなあ。誰かがいなくなったら、誰かが当たり前にその穴を埋めていくってことなのよ。ジャイアンがいなくなったことでスネ夫は暴力にびくびく怯えることがなくてさ、権力使って威張り散らしたり、その分のびのびと大きくなることができてガキ大将ポジションになりかわっちゃったってことじゃないかな。バタフライ効果みたいなものなんだよ。何か一つ、過去が書き換わると……その先に繋がる未来ががらっと変わる。変わるけど、未来がなくなるわけじゃないでしょ?」
「……言いたいことわかるようで、わかんないよ。難しい」
「まあ結論として。のび太が変わらないと、のび太をいじめる奴はきっといなくならないってことなのよ」
それはちょっと納得できない。私はむすっと口を尖らせる。
「何それ。いじめって、いじめる奴が悪いんでしょ。最初の野球のシーンだって、ジャイアンが暴力振るうのがいけないのは事実じゃん。あれはのび太悪くないと思うんだけど」
「うん、そこは否定しないよ」
でもそうじゃないの、とスズメちゃん。
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