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ドラえもんがのび太を懲らしめるべきと考えた理由の一つは、それだったのかもしれない。
誰かを消したところで結局、自分が幸せを享受できなければ意味なんてないのだと。
「のび太って野球チームからハブられると残念そうな顔することも多いのよね」
スズメちゃんが笑いながら言う。
「それって多分、野球自体が嫌いなわけじゃないんだと思う。……上手になったら、もっともっと野球するのが楽しくなるんじゃないかなあ」
「うん」
「でさ。……のび太が野球下手なままでさ、ジャイアン消えてさ。それでのび太は、ジャイアンツのエースになれたと思う?」
「……思わない」
「そうでしょうよ」
なんだか、わかってしまった。どくさいスイッチの話を見て、私達が本当に気づくべきことがなんであったのかを。
幸せになるための努力を、人は怠るべきではない。それは、自分が悪いとか悪くないとかではなく、自分を守るために、自分を誇るために必要なことなのだ。
人を消す理由はいつだって簡単に思いつく。嫌いだから、ムカつくから、うざいから、邪魔だから。けれど本当に大切なのは人を消す理由より、人を消さないで済む理由の方だったのではないか。消さないでも、幸せになる理由があったなら。
現実にどくさいスイッチはない。あってはならないからこそ。
「……なんか、そう考えると」
原稿用紙に目を落として、ぽつりと呟く。
「どくさいスイッチって、怖いね。……スイッチ一つで人を消してしまう道具なんてあったら……そんな力持ってしまったら。それそのものが、不幸ってことなのかも」
「いいじゃん」
そんな私の肩をぽんぽんと叩いてスズメちゃんが言った。
「今日、ゆまちゃん凄くいい話してるよ。いいことたくさん気づけたんじゃない?なら、それをさ。思ったまま書いてみなよ。脈絡なくたって、きっと先生わかってくれる。ゆまちゃんがゆまちゃんなりに、一生懸命頑張ったんだって」
「うん……」
とりあえず、タイトルは決まった。
“人を消す理由、消さない理由。”
人は望めば、いくらでも独裁者になりえる。そうならないために子供のうちから、考えておくべきことは星の数ほどあるのだろう。
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