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目立たない空と視線の集まる日向
何これ?手紙か?
それは夏の暑い日差しが降り注ぐ朝礼での出来事。僕は教室の最後列の窓側の席で、エアコンの風が直接当たる。まさに神スポットであるにもかかわらず、謎の現象に悩まされていた。クラスのみんなが暑さで静まる中、元気よくポケットの中から生じるバイブル音。僕はスマホを学校に持って来ない…………。
恐る恐るポケットに手を突っ込んで確認してみる。すると、そこには僕の字体ではない、手紙が入っていた。丸くてかわいらしい字体だな~。
『これから席替えか~~。憂鬱だわ…………友達でもいれば楽しくなるのかしら?』
僕がその紙を読み終えると、幻であったかのようにヒラヒラと散っていく。普通ならこの現象に驚き、机から転げ落ちるかもしれない。しかし、僕はこんな現象にも興味がなかった。
そんな教室が静寂に静まる中、空気を読まずに話しかけてくる前の席の友達。
「なあ、そら、次の授業を席替えするらしいぞ!見ろこれを!」
すると、友達はボールペンのようなものを見せつけてくる。
「これはな、俺の自分の思いが反映されるように、願いを込めたボールペンだ。なんでも、思いが強けりゃ、付喪神様が宿るらしいからな!」
僕はそんな1日や2日じゃあ付喪神はつかないだろ。と言いたかったが、キラキラ輝かせる期待の目を向けられていたので。
「それは絶対に叶うな!」
と答えることしか出来なかった。
「よっしゃ~!今度こそ俺は最前列のど真ん中の席に行くぞ~~~。」
一見授業熱心な発言に聞こえるかもしれない。でも、実際は恋愛熱心なだけだ。このクラスは多くの生徒が前列を希望して、やる気のあるクラスとよく言われる。しかし、授業にではなく、恋愛に対してやる気が高いだけ。つまり、最前列のど真ん中に毎回のように座るヒナタさんと接点を生みたいから、前の席に行くだけだった。また、男子がみんな前に行くので、高校生活を謳歌したいと考える女子も自然と前に行く。
僕は嫉妬の思いを自分の手帳に殴り書きをする。
『僕はどこに座っても目立つような見た目をしてないから、影でひっそりと暮らしますよ~~~だ』
「見とけよ、そら。俺がヒナタさんの隣にいった暁には、告白を絶対に成功させてやる!」
「おう、頑張ってくれ~~。星の数のように散っていった仲間のためにも…………」
目に炎を灯して気合十分の友達に対して、どうせ成功率はゼロと考え、僕は友達の質問を冷たくあしらう。だって、ヒナタさんの「キモい」の一言で、全員滅多切りにされてきたのだから。すると、ポケットの中が振動する。びっくりしながら、ポケットに中の手紙を確認する。
『今回も、告白があるのか…………本当につまらないわ』
まあ、結果は目に見えているショー程つまらない物はないな…………。
そして、緊張感のある席替えが始まる。うちのクラスはみんなの自主性が高いため、好きな席を指定することが出来る。被った場合はじゃんけん。まあ、結果から言ってしまえば、僕の狙っている席は倍率が1倍。
だから、僕は気だるげに、自分の席に肘を着いたまま動かない。地味で目立たない僕は一目のつかない後ろの席にいるのがお似合いさ。そうせ日の目を浴びることもないし…………。
そんな僕の油断がこの最悪の事態を招いたのかもしれない…………。
いつも最前列に座っているヒナタさんがなぜ僕の座っている方向に歩いてくる。そして、僕の隣に座る!?僕はあまりの衝撃に、今日初めて席から立ち、彼女に問いかける。
「どうして、いつも最前列にいるヒナタさんがここに?」
「話しかけないで」
立っているはずの僕を見下すような鋭い視線。僕の隣に座るヒナタさんはどこか不機嫌だった。いや、これが通常運転かもしれない。
ヒナタさんが最前列でないことに、教室の全ての人間がざわめき始める。なんなら、最前列のど真ん中を勝ち取った生徒は希望からの落差で、涙ぐんでいる。あっ、よく見たらさっきまで僕と話していた友達だ。
僕の心臓はドキドキと加速し始める。これは決して恋ではない。ただ、非常にめんどくさい状況になってしまった。なぜなら…………。
そこで、長髪の大人びた可愛らしい先生が、立ったまま硬直状態の僕に対して、急かすように言う。
「そらさん、授業時間も限れていますから、早く済ませてくださいよ。」
「今更、ヒヨったなんて言わせないぞ~~」
はぁ~、めんどくさい…………。クラス全員の視線がそらに集中する。その突き刺さる視線に、僕はため息をしか出ない。そして、座ったままでこちらに興味がなさそうなヒナタさん。これから始まるのは、告白して滅多切りされるだけの公開処刑だ。
僕は呼吸が出来ないほどに、心拍数が上がる。すると、ヒナタさんがピンクの手帳に初めて見たはずなのに、どこか見覚えのあるボロボロのシャーペンで何かを書いている。そして、書き終えると誰にも見られたくないのだろう。すぐさまポケットにしまう。それと同時に僕のポケットが振動し始める。
『クラスの前で告白なんてしなくていいのに…………』
これだ!僕はそう思い、消えていく手紙とは同じようにはなりたくないと気持ちを込める。結果は変わらない「キモい」と言われるだけだと、クラス一同がニヤニヤ笑う。
「僕そういうの興味ないんで…………」
「キモ…………え?」
目を丸くするヒナタ、対するクラスは呆れる。
「ヒヨったな……」
「授業を開始しますね」
立ったまま放心状態の僕だけを残して授業が始まる。そして、僕の右ポケットが振動する。
『初めて…………』
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