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「母さん、僕…欲しいものができた」
「え? ミシェルが?」
ある日、夜の食事の途中でミシェルが言うとセイラは驚いた顔でミシェルを見た。
確かにここ最近ミシェルが明るい気がする。セイラはミシェルのことをずっと心配していたのだ。暗くてあまり笑わない息子。こんな生活をしていたら、心がくたびれてしまうに違いないが…久しぶりに見た息子の笑顔にセイラは泣きそうになった。
「欲しいものってなんなの?」
「それはまだ秘密だよ」
子供らしい拗ねた表情を見せるミシェル。
「でも…母さんも手伝ってくれる?」
「! もちろんよ、私に出来ることであれば!」
セイラが頷くとミシェルは嬉しそうに笑って「ありがとう」と言った。
その日セイラは仕事から早めに帰宅した。家にはミシェルの姿はない。
(あの子…いつもどこに行ってるのかしら…)
そんな事を思いながら食事の支度をしようと準備していたら戸が開き、誰かが入って来た。ミシェルが帰ってきたのだと思ったセイラは笑顔で振り返る。
「おお、話に聞いた通りの美人だ」
「汚いが洗えばいいか」
しかしそこには知らない男が二人立っていた。
「…ど、どなたですか?」
セイラは身構える。
「我が家に勝手に入らないでください!」
ひっくり返る声でセイラが精一杯の虚勢を張ると、男たち二人は面白そうに笑ってセイラに近付いていった。ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべて、手を伸ばす。
「離してください!」
倒れ込むセイラに男の一人が構わずに馬乗りになり、セイラの服を剥ぎ取ろうとした。抵抗するが敵わず、セイラの上半身が露わとなる。
「いいもん持ってるじゃねぇか!」
興奮してきたらしい男はズボンのボタンを外しはじめた。セイラは目に涙を浮かべながら、ミシェルの身を案じていた。
(ミシェル…どうかこのまま帰ってこないで!)
この男たちに出会した時、ミシェルがどんなに酷い事をされるか分からない。せめて自分だけが汚れてしまえばいいとセイラは強く願った。
セイラの乳房を遠慮なく鷲掴みにしてくる男。
「俺が先にするから、お前は外を見張ってろ」
「へいへーい」
どうやら一人は家の外で待機するらしい。それであれば、知らない男が立っていたらミシェルも警戒して家に近付いてこないかもしれない。
(良かった…良かった……!)
「よか……ぅう、うっ…」
セイラは遂に涙を流し、自身に降りかかるこの理不尽さを恨んだ。どうして、盗みもせず、犯罪にも手を染めず、どんなに貧乏でも真っ当に生きてきたのに…どうして自分がこのような目に合うのだろう。
セイラは涙に滲む目で男を睨み付けた。犯される前に、最後に死ぬほど暴れて抵抗してやろうと思ったのだ。
男がセイラを見下ろし笑う。そんな男の後ろで…。
(……ミシェル?)
自身の瞳と同じ印象的な青い目を大きく開き、角材を振り上げるミシェルの姿をセイラは見た。それは一瞬の出来事で、ミシェルが力一杯に角材を振り下ろすと、男の後頭部が割れて血が飛び散った。
男が倒れたと同時に血の付いた角材を投げ捨てたミシェルは母親に手を伸ばした。
「母さん、掴まって!」
必死な顔で手を差し伸べてくるミシェルに、セイラは無意識に手を伸ばし、そして息子の手を掴む。男たちに破かれた服の上から、引っ張り出したシーツを纏いセイラはミシェルに手を引かれて家の裏口から逃げ出した。
ミシェルの走る方向へとセイラもついて行く。一体どこに向かっているのかも検討付かないが…それでもセイラは迷いなく進むミシェルを信じて走った。
到着したのは街のはずれにある大きな孤児院だった。確か、ブラン公爵家が管理している…。セイラが圧倒された様子で立派な豪邸に見える孤児院を見上げる中、ミシェルが柵を開き中へと入っていった。
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