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ミリーナは動きを止めて、ミシェルを見上げる。
「この屋敷で、僕の目となり耳となるんだ」
それはミシェルとの下僕の契約。
「僕の不在時に君がリゼと屋敷を監視し、些細な事全てを僕に報告して」
(手と足はもういるしね…)
ニヤリと笑うミシェルには気付かずに、ミリーナは涙を流しながら笑った。そんな簡単な事で許されるなら、自分は…。
「はい…はい! ミシェル坊ちゃんの仰る通りに致します!」
ミリーナの返事を聞き満足そうな顔で微笑むミシェルは、ミリーナが昼間に見た『美しくも優しいミシェル坊ちゃん』の姿をしていた。
「そう…じゃあ、頼むね」
ミシェルは笑みを深める。
「僕を裏切ってもいいけれど…その時は覚悟してね」
笑っているのに、笑っていない青い目。ゾワッと全身に鳥肌が立つミリーナ。
「…とりあえず、リゼ…姉さんの体を綺麗に拭いてあげてくれる? このままだと風邪引かせちゃうし…」
ミリーナは頷き立ち上がると、ベッドに横たわるリーゼロッテの元へと近付いた。予め用意されていた綺麗なタオルを手に取り、リーゼロッテを見る。
(…寝ている…)
ミリーナとミシェルの会話の途中に一向に起きる気配のないリーゼロッテを不思議に思っていたが…リーゼロッテは深い眠りについているようだ。
彼女の裸は女性の自分が見ても頬を染めるほどに艶めかしく思う。ミリーナは用意されていた水でタオルを濡らし、リーゼロッテの身体を拭き始めた。
彼女の女の部分には、様々な体液が付着していた。本人のものでもあるし、そしてこの白濁したものは…。ミリーナは主人たちの情事の生々しさを目の当たりにし、思わず顔を赤らめた。そして下腹部がズクズクと疼く。
(こんな事をされても起きないなんておかしい…)
手を止めてリーゼロッテに憐れむ目を向けた。きっとリーゼロッテは自分の身に起きていることを知らない。自分も、そしてこの可憐な主人もミシェルから逃げられないのだ。
そんな事を考えていたミリーナだったが、ミシェルからの視線を感じてハッと我に返る。僅かに首を動かし、後ろに佇むミシェルを見れば、彼は無表情でミリーナの一挙一動を観察するようにこちらを見ていた。
彼の青い目はどこまでも透き通っていて、こちらの思考や気持ちも全てを見通してしまいそうだ。ミシェルが何かを考えるように、顎に指を添えた。
(何、何!? 今、何を考えてるの…!?)
自分の処遇を考えているのではないか、やはり自分の価値が無いと判断したのではないか…不安と恐ろしさが彼女の心を埋め尽くす。ミリーナはリーゼロッテを憐れむ気持ちを投げ出して、ミシェルに忠実にあろうと決意した。
(逆らってはいけない、この方には…決して!)
丁寧に心を込めてリーゼロッテの体を拭き上げていく。何度もタオルを洗い直し、リーゼロッテを綺麗にしていく。
最後に、リーゼロッテの中心部の奥からある程度掻き出してやった方がいいのかミリーナが悩んでいると、ミシェルが近付いてきてミリーナに言った。
「姉さんはまだ処女だからそれはしなくていいよ」
ミリーナの肩がビクリと強張り、横に立つミシェルを怯えた顔で見上げる。
「ご苦労様。もう行っていいよ」
そう言って自分に微笑みかけた主人はすぐに興味がないように視線を逸らし、そしてリーゼロッテだけを見つめていた。
ベッドに腰を掛けてリーゼロッテに手を伸ばすミシェルを見た後、ミリーナは静かに頭を下げて部屋から出ようと彼らに背を向けた。
「…姉さん…リゼ…愛してるよ…」
扉から出る瞬間、背中で聞いたミシェルの愛と舌が絡み合う水音。ミリーナは、狂ってる、と思ったが何も聞こえないふりをしてそのまま部屋を後にした。
—参 壇上の天使・終—
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