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自室に戻ると執事が整理してくれたリーゼロッテ宛の手紙が机の上に置かれていた。手に取り、届いた二通の手紙の差し出し人を確認する。一通目はアイヴィーからの手紙だった。
リーゼロッテの一つ年上のアイヴィーは今年から帝都の学園へと通い、ここ南部を離れて遠い帝都で生活をしている。彼女の手紙はいつも明るく、都会の流行情報が載っていて、そしていつもリーゼロッテを気遣ってくれる。
「…私も早く会いたいわ」
リーゼロッテとの再会を楽しみにしていると締め括られた手紙に向けて彼女は言った。
届いたのはもう一つある。差し出し人を確認して、リーゼロッテは眉を顰めた。
「またこの人から…」
それは最近、帝都から南部に越してきた伯爵家の一人息子からの手紙だった。アイヴィーと同い年の彼は今年から南部の学園に通っているアラン・ビートという。
都会風を吹かせ、南部の貴族を下に見ている何ともイケすかない男だ。その粗暴な性格から学園でも僅か数ヶ月で問題児視されているらしく、リーゼロッテとしては彼に関わりたくない。
しかし、そんなアランから不幸にも気に入られてしまったようで、リーゼロッテの元にこうしてアランから何通もの恋文が届くのだ。恋文が届く程度なら構わないが、問題はその内容だった。
愛を囁くに止まらず、リーゼロッテの胸や腰付きといった身体的な事にも言及する内容。リーゼロッテの女性らしい体型を称賛し、そんなリーゼロッテと結ばれて、自分を幸せにしたいという内容に、リーゼロッテは心底気持ち悪く感じる。
発育の良い方であるリーゼロッテは自身の身体の急激な変化に戸惑っていた。大きく膨らんできた胸、丸みを帯びてきた腰…同年代と比べて確実に『女』の部分が強い自分の体に恥ずかしさを覚えていた。
そこにアランからの手紙の内容に、その羞恥心は刺激されてリーゼロッテの中で自己嫌悪感が加速してしまう。
リーゼロッテはアランの手紙を床に投げ付けた。返事を書かずとも次々に届くアランの手紙に、腹が立って仕方なかった。
*
ある日、リーゼロッテが友人達とショッピングに街へ繰り出していると、同じく友人たちと共に過ごしていたアラン・ビートと鉢合わせる事があった。
口にすることが恥ずかしくて、アランからの手紙については親にも相談出来ていないリーゼロッテが友人に話しているわけもなく…何も知らない友人たちはアランに押し切られて、その日を共に過ごすこととなってしまった。
とりあえずカフェに入ろうというアランの提案に、皆は承諾し近くの店へ入った。
「リーゼロッテ、久しぶりだな」
「…えぇ、そうね」
リーゼロッテが素っ気なく返すと、アランはニヤニヤといやらしい目でリーゼロッテの身体を舐め回すように見てくる。その店はソファー席で、自然とアランの隣に誘導されたリーゼロッテは、仕方なくそこへ着席した。
やはり都会出身だからか、垢抜けているアランは南部で令嬢たちの人気を集めていた。体格の良い大きな体、粗野な性格が男らしくて良い、と、一部の令嬢たちには魅力的に映るらしい。
アランから出来るだけ離れて座るリーゼロッテの腰に手を回し、アランはグイッと自身の方へと引き寄せた。
「ちょっと…!」
驚くリーゼロッテに、アランは不敵に笑う。回された手はガッチリとリーゼロッテの腰を掴み、そして細さを確かめるように撫でる動きをする。
ゾワゾワと悪寒が走る。そんなリーゼロッテの気持ちも知らないで、友人の令嬢たちはアランの大胆な行動にきゃっと頬を赤らめて楽しそうだ。
(こんな乱暴な人のどこがいいの?)
リーゼロッテは信じられない気持ちで盛り上がる友人たちを見る。
(それなら、内心は何を考えているか分からないけど表面上はすごく優しいミシェルの方が…)
毎日ミシェルの目が洗われるような美貌に見慣れているリーゼロッテからすれば、アランなんてこれっぽっちも魅力を感じない。
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