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きみが隣に
「矢崎が好きだ。付き合ってください!」
クラスメイトに体育館裏に呼び出され、なんだろうと思ったら突然告白された。
「……は?」
「付き合ってください!」
「俺、瀬尾とほとんどしゃべったことないし、よく知らない人と付き合えないよ」
瀬尾はいわゆる陽キャグループで、美形なのもあって人気者。いつもひとりでいる俺の位置づけは正反対だ。接点もないのに好きだと言われるのもわからない。男性同士の恋愛をどうこう思わないけれど、まさか自分が男子に告白される日がくるとは思わなかった。というか俺みたいな平凡中の平凡が誰かに告白されること自体、驚きの出来事なんだけど。
「だから、ごめんなさ――」
「友だちからでいいから、お願い!」
両手を合わせて拝むように頭を下げる瀬尾に、どうしたものかとそっとため息をつく。でも人に好かれていること自体は嬉しいし……。
「……わかった」
「!」
「友だちからなら」
「ありがとう!」
抱きつかれそうになって慌ててよけると、瀬尾が、ごめん、と言う。全然友だちらしくなくて焦ってしまう。それとも、ハグくらい友だち同士ならあたり前なんだろうか。
「じゃあ、一緒に帰ってもいい?」
「いいけど」
「やった」
無邪気に笑う瀬尾は可愛くも見えて、みんなから人気があるのがわかる気がする。一緒に教室に戻って通学バッグを取ってからふたりで学校を出た。
「矢崎は電車?」
「うん」
「俺も。駅まで一緒に行けるな」
昨日……いや、三十分前にもこんなことになるとは想像もしなかった。まさかあの瀬尾と一緒に下校するとは。
そうだ、とずっと気になっていたことを聞いてみる。
「なんで俺なの?」
「え?」
「瀬尾なら選び放題なのに、俺を選ぶ理由はなに?」
「えっと……」
少し困ったような顔をする瀬尾に俺は首を傾げる。
「選び放題なんてことないけど……矢崎の、その、みんなと違う感じが気になって」
なにか隠しているような様子に見えるけれど、気のせいだろうか。
「ふうん……」
ここはあまり深く突っ込まないでおく。瀬尾の目が泳いでいるのも見ないふりをした。
「俺、ひとりでいるのに慣れてるから迷惑かけちゃうかもしれないから先に謝っておくね。ごめん」
「え……」
「話すのとかうまくないし、面白いことも言えないし」
「謝るなよ!」
ひとつ頭を下げると、瀬尾が慌てたような声を出して俺の肩に触れた。顔を上げると、瀬尾は真剣な表情で俺をまっすぐ見ている。
「そういうの、謝ることじゃないだろ。人には得意なことや不得意なことがあるんだし」
「……うん」
「矢崎はそのままでいいんじゃない?」
「……」
瀬尾が好かれる理由がわかる気がする。こういうことをさらりと言えるから人が自然と寄ってくるんだ。ほとんど話したことがないからわからなかったけれど、瀬尾は優しい人なのかもしれない。
「ありがとう、瀬尾」
「なんで?」
「言いたかったから」
「……そう」
瀬尾をもっと知ってみたい。
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