きみが隣に

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「……言わないでいいよ、瀬尾」 睨み合っていたふたりが俺を見る。大丈夫、もう充分だ。 「もう、わかったから」 「矢崎……でも瀬尾は……」 「いいから」 「……」 口を噤んだ半田から距離を取って、瀬尾に近づいて顔を見る。やっぱりだめだ、惹かれてしまう……そばにいたいと思ってしまう。裏切られるかもしれないのに、離れた時間で瀬尾の心を見てしまったから、ただ責めることができない。俺が言ったとおり、一切話しかけてこなかった瀬尾。そして俺は瀬尾が気になってどうしようもなかった。 じっとその顔を見る。本当はずっとそばで見ていたかった。こんなに苦しそうな表情をしている瀬尾に心を動かされないなんて無理だ。 「瀬尾、ちゃんと説明して。瀬尾の口で。それが先だよね?」 「矢崎……」 「罰ゲームのこと。瀬尾の気持ち……全部」 おずおずと俺のほうに手を伸ばした瀬尾が、触れる寸前にぎゅっと拳を握り、それから力を緩めて俺の肩を手でぱっぱっと払う。 「なに?」 「半田が触ったから。汚れ落とし、厄除け」 「ひでー言い方」 半田が笑いながら手をひらひらと振って教室を出て行く。もう一度瀬尾に向かい合い、その瞳をまっすぐ見つめる。 「瀬尾……」 「ごめん、矢崎。全部説明する」 先程半田から聞いた、小テストの点数で負けて罰ゲームをしたこと、女子だと絶対オーケーされるから、といつもひとりでいる俺に告白するように言われて、嫌だったけれど負けたのは事実だからと渋々告白したこと、本当はあの罰ゲーム自体嫌だったこと……なにも隠さず教えてくれた。 「友だちからでオーケーしてもらったから、それでよかった。でも、そばにいればいるほど矢崎は素直でいい奴で、知らない表情とか見て気になっていって……」 瀬尾の気持ちは本当に本当なんだ、と思ったらようやく安心できた。そうしたらふっと肩の力が抜けて心が楽になった。 「本当に矢崎が好きなら二度と話しかけるなって言われて……ショックだったけど、当然だとも思った。それだけ矢崎を傷つけたんだよな……」 「すごく傷ついたよ。俺だって瀬尾に惹かれてたから」 「え?」 一度俯き、ぎゅっと目を閉じて、勇気を出せ、と心の中で自分に言ってから顔を上げる。 「俺、瀬尾のそばにいたいと思ってた。俺が笑うとき、瀬尾に隣にいてほしいって」 頬が熱いし、恥ずかしくて逃げ出したい。瀬尾もまっすぐ俺を見つめているので、情けないことになっていると思う表情も震える声も隠せない。 「瀬尾のこと……すっ……好きになっちゃってたんだから、責任取ってよ!」 自分で言って更に頬が熱くなった。言うにしても「責任取って」はないだろう。瀬尾もぽかんとしている。
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