きみが隣に

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「矢崎、昼一緒に食おう」 「いつも俺といていいの?」 「俺が矢崎といたいから、いいの」 誘われるままに連れ出されて、屋上に向かう。暖かい陽射しの中でふたりでパンを食べる。 「矢崎、そのパンうまそう。一口ちょうだい?」 「いいけど」 ちぎって渡そうとすると、その前に俺の持つパンに瀬尾がかぶりついた。 「うまい。俺のも食う?」 「……いい」 これって間接キスってやつじゃないの? と思いながら手に持つパンを食べる。なぜかどきどきしてしまう心臓に、静まれ、と言い聞かせて平静を装うけれどうまくできているかはわからない。 「今日の数学も眠かったー。あの先生、話すのゆっくりだから眠気誘うんだよね」 瀬尾がひとつあくびをする。 「じゃあ速ければいいの?」 「それもリズム感があって眠くなる」 「結局眠いんじゃん」 二個目のパンの袋を開ける瀬尾の手つきが綺麗で、なんとなく見てしまった。指もすっと長くて爪の形まで整っている。 「矢崎は授業でわからないところ、どうしてる?」 綺麗な手から目を上げれば、端正な顔。向かい合う俺は極めて平凡顔。不公平だな、と少しだけ思う。 「とことん復習する。そうしないと平均点以下に落ちるかもしれないから」 「復習かー……苦手だ」 うげ、と言うのでおかしくて笑うと、瀬尾が驚いた顔をする。 「なに?」 「いや……なんか」 「なんか?」 「笑顔が……」 「……?」 その頬が少し赤くなって、なんだろうと首を傾げると、瀬尾はぶんぶんと首を横に振った。 「なんでもない!」 口を大きく開けて豪快にパンにかぶりついた瀬尾は、すぐにむせて涙目になる。本当によくわからない。 休み時間や学校帰りなど、瀬尾とふたりで過ごす時間が増えていった。瀬尾は知れば知るほどいい奴だと思う。ちょっと咳をするとのど飴をくれたり、風邪ひくなよ、と声をかけてくれたり、脚が長い瀬尾は歩くスピードも速いはずなのに必ず俺に合わせてくれたりもする。歩くの速くない? と、ときどき声をかけてくれる気配りもすごいなと思う。もともと気遣いのできる人なんだろう。一緒にいると居心地がよくて笑顔になれる、不思議な魅力に溢れた男。 もらったのど飴を、なんとなく大切に取って置いてしまった。
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