きみが隣に

4/11
前へ
/11ページ
次へ
瀬尾とふたりでいることに慣れてきたある日、俺は委員会の集まりがあった。終わるのを待っているという瀬尾をなるべく待たせないように早足で教室に戻ると、瀬尾と、瀬尾の友人の半田がなにやら話している。 「瀬尾、うまくやってんじゃん」 「なにが?」 邪魔しないほうがいいかな、と廊下から教室内の様子を窺う。 「ネタばらしした? 矢崎に」 「してない。するわけないだろ」 ネタばらしってなんだろう、と教室の中を少し覗き込むと、にやにやと笑う半田と、なぜだか複雑そうな表情をした瀬尾。半田が瀬尾の首に腕を回し、その髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。 「言えるわけないよなあ! 『罰ゲームで告ったんだ』なんて!」 「声でかいよ」 罰ゲーム……。 足元がぐらぐらして、床が崩れていくような感覚にしゃがみこみそうになるのを堪える。だから、どうして俺なのかを聞いたときに様子がおかしかったのか、と腑に落ちた。逆にすっきりしたような気分にもなる。罰ゲームじゃなければ瀬尾のような人気者が俺みたいなのに告白するなんてありえない。考えてみればすぐわかるようなことなのに、今までそれに気づかなかった俺が脳みそお花畑なんだ。 「……」 そっと教室から離れて、どこに行くでもなく歩き出す。教室から「キスくらい済ませた?」と半田の声が微かに聞こえてきた。 「……っ」 心が凍っていく。瀬尾の優しさも気遣いもゲームの一環だったのかと思うと、それに居心地のよさを感じていた自分が馬鹿みたいで、泣きたくなるくらい苦しい。あの告白された日、帰り道での違和感のときに瀬尾を問い詰めていたら、こんな気持ちにならずに済んだんだろうか。 「あー……」 本当に馬鹿みたいだ……瀬尾に惹かれていたなんて。ショックを受けている自分にもショックで、視界が涙で滲んできた。でもこんなところで泣くわけにはいかないので近くの水道で顔を洗う。 罰ゲーム。 瀬尾は全然いい奴でも、気遣いのできる人でも優しい人でもないことを知った。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加