きみが隣に

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結局、下校時間ぎりぎりまで校内をぼんやり歩き回ってから教室に戻った。そのときには半田はもういなくて瀬尾だけだった。 「遅かったな。お疲れさま」 「……うん」 瀬尾の目を見られない。待つのに疲れて先に帰ってくれたらよかったのに、と思いながら、待っていてくれたことに少しだけほっとしている自分がいる。瀬尾の笑顔が心に痛い。 「じゃ、帰るか」 「……」 いつまで俺のそばにいるつもりだろう。いつになったらネタばらしをするつもりだろう。ちらりと表情を盗み見ると瀬尾は平然とした顔をしていて、そんなことにも傷ついてしまう自分にため息をつく。 「矢崎、なんか静か?」 「そう?」 「委員会で疲れた? 長かったもんな」 「そうかも」 なにも話したくない。適当な相槌を打つだけでこちらからは話しかけずにいると、瀬尾が心配そうに顔を覗き込んできた。それに腹が立って顔を背ける。腹が立つのに、気にかけてもらえることは嬉しい……心が複雑に揺れていて、俺はどうしたらいいんだろう。 「疲れてるなら早く帰ろう。しっかり休めよ?」 そういう優しさも全部作り物だってわかってしまった。罰ゲームだから仕方なくやっているくせに、まるで本当に心配しているような顔をする。演劇部にでも入ればいいのに。 いや、もしかしたら本当に心配してくれているのかもしれない……ありえない、罰ゲームだからやっているだけだ……思考が交錯してどんどん自分で自分がわからなくなっていく。 「じゃあな」 瀬尾が手を振っているのを無視して俺は自分の乗る方向の電車のホームに行く。 嫌いだ。瀬尾なんか大嫌いだ。 帰宅して、取ってあったのど飴の個包装を乱暴に破り、飴を口に放り込んで噛み砕いた。止まらない涙は瀬尾のせい。
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