きみが隣に

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「矢崎、友だちから恋人になってください」 それから三日後、瀬尾が更に心がぐちゃぐちゃになることを言ってきた。虚しさに思わずため息をついてしまう。下校途中の、駅までもう少しというところでのこと。 「今度はなにに負けたの?」 「え?」 「俺に告白したの、罰ゲームだって知ってるよ」 「!」 目を見開いた瀬尾の表情が、驚きから焦りへと変わっていく。 「なんで知って……」 「瀬尾が半田と話してるの聞いちゃったから。それで? また負けたの?」 瀬尾から視線を逸らして足元を見る。二回もなんて、こんな奴だと思わなかった。最低だ……瀬尾も、瀬尾に惹かれていた俺も。脳裏に浮かぶのは、俺に向けられた優しい笑顔。でもそれは作り物だった。 「そうじゃない! 俺は本当に矢崎が好きで……!」 「信じると思う?」 俺の言葉に固まった瀬尾が口を噤む。ひどく傷ついたような表情をするから胸が痛くなるけれど、傷ついているのはこっちのほうだ。 「……本当に俺が好きなの?」 「……」 なにも言わずただ頷く姿を空っぽの心で見つめる。その瞳が微かに揺れているけれど、これも演技だろう。 ……でも、やっぱり瀬尾を信じたい自分がいる。 「本当に俺が好きなら、二度と話しかけないで」 それでも瀬尾を忘れたいのも本当。だってすごく苦しいんだ。瀬尾の笑顔が頭に浮かぶと、心臓を抉られたような痛みに襲われる。 「……ごめん」 静かに謝り俯く瀬尾に、唇を噛む。 馬鹿みたいだ……。 涙が溢れそうになるのを堪えながら、瀬尾を残してその場を去った。
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