きみが隣に

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それから瀬尾は一切俺に話しかけず、近寄らなくなった。ただ寂しそうな視線をときどき送ってくる。そんな目をされても、また傷つくのは嫌だ、と無視する。これ以上苦しい思いをしないためにはそれしかない。 徐々に瀬尾はいつも一緒にいた陽キャグループの輪から外れ、ひとりでいるようになっていった。最初は声をかけていた仲間たちも、瀬尾が無反応なので相手にしなくなったようだ。 ……結局俺は、瀬尾が気になって仕方がない。 「あ……」 ペンケースを落としてしまい、中身が床に散らばる。視線を感じてそちらを見ると、瀬尾が心配そうな瞳で俺を見ている。 「……」 絡まった視線をすぐに逸らして交差を断ち切り、ペンを拾いながら自分で言った言葉を思い出す。 ――本当に俺が好きなら、二度と話しかけないで。 瀬尾は本当に俺が好きなのかもしれない。でもまた裏切られたらと思うと、話しかける勇気はない。 瀬尾があの日から一度も話しかけてこないことが、俺にとっては最後の砦でもあった。 苦しいばかりの日々を過ごしていたら、ある日半田から声をかけられた。あのとき教室で瀬尾に罰ゲームの話をしていた相手だ。放課後の教室、今日は半田と俺のふたりきり。 「ごめん、矢崎!」 「……謝られても」 「本っ当にごめん!!」 「……」 土下座をしそうな勢いで頭を下げて謝る半田に少し引きながら、頭を上げて、ととりあえず言うと半田は上目遣いで俺を見た。 「……怒ってるよな?」 「別に」 「怒ってる!」 「別にって言ってるじゃん。もう帰っていい?」 瀬尾と罰ゲームのことを思い出してしまうから、本当は半田とも関わりたくない。俺が帰ろうとすると半田がもう一度、ごめん、と言う。 「いいよ、もう……」 全部終わったから。……いや、終わっていないのかもしれない。結局苦しいままで、なにも変わらない。瀬尾に近づけば、きっとすぐにまた惹かれていく。 「……瀬尾、嫌がってた」 「え……?」 「あの罰ゲーム、小テストの点数で瀬尾が負けたからだったんだけど、負けた奴が告るって内容で」 「……聞きたくない」 本当に帰ろうとする俺の手首を半田が掴むので眉を顰めると、半田はいつもと全然違う静かな声で言葉を続ける。
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