きみが隣に

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「あいつ、あれで頭いいだろ」 「……うん」 「だから瀬尾が負けてみんな面白がっちゃって……俺も面白がったひとりなんだけど」 「……」 「女子に告ったら絶対オーケーだから矢崎に告れって言われて、瀬尾はそういうのは嫌だって言った」 もう聞きたくない……でも聞かないといけないような気もする。だけど、真実は瀬尾の口から聞きたい。こういうことは、きちんと瀬尾の口から……。 優しくて眩しい笑顔が脳裏に浮かぶ。 「瀬尾は最初から、負けたら告るっていうのを嫌がってたんだ。俺たちが面白がってやらせた。矢崎はいつもひとりでいたし、からかってみようって」 「最低だね。面白がった半田たちも、嫌がりながらでもやった瀬尾も」 「そのとおりだよ。でも本当に最低なのは俺たちだけで、瀬尾は違う。何回謝っても許してもらえないと思ってるけど、それはわかってほしい」 最低なのは半田たちだけ……それを簡単に納得できたらどんなに楽だろう。 「……わかったよ。もう帰っていい? 手、離して」 ここはこれで切り抜けようとわかったふりをして掴まれたままの手に視線を落とすと、その手に力がこもったので半田を見る。これ以上ないくらい真剣な表情を向けられて怯んでしまう。 「瀬尾は本気で矢崎が好きだよ」 「……」 「罰ゲームのとき、瀬尾に状況を報告させてたけど、すぐに『もうなにも話さない』って言われた。あいつ、矢崎といるとすごく楽しそうだった」 「……知らないよ、そんなの」 半田の手を振り払おうとしても力が強くて敵わなかった。 「俺たちのことはめちゃくちゃ嫌って無視していいから、瀬尾のことは嫌わないでやってほしい」 「だったら最初からそんな馬鹿な罰ゲームやらなければよかったんじゃない?」 結局そこに戻るから、この話は進まない。もう帰りたい。聞けば聞くほど心の中の瀬尾がどんどん大きくなっていって苦しくなる。 「……ごめん」 「だからもういいって。離して」 「矢崎が瀬尾を嫌いじゃないって言うまで離さない」 「なっ……」 なにを言い出すのかと半田の顔を見ると、怖いくらい真剣な瞳で俺をとらえる。面白がっておかしな罰ゲームをさせたりしたけれど、半田も瀬尾が大切なんだ。
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