きみが隣に

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「お願い、矢崎。本当は瀬尾を好きになってほしいけど、そこまでは俺にどうにかできる問題じゃない。でも嫌わないでやってほしい」 「……」 「あいつ本当にいい奴なんだ! ふざけるときもあるけど、根は真面目だし優しいし……!」 「……知ってる」 話しかけないでと言えば、本当に一切話しかけないくらい真剣に俺の気持ちを考えてくれるし、それだけ俺を――。 でも、もうどうにもできない。近づくのが怖い。俺が口を噤むと沈黙が流れた。 「半田? ……矢崎、も……」 「!」 その沈黙が突然破られた。弾かれたように顔を上げると、教室の入り口に瀬尾が立っている。瀬尾は半田が俺の手首を掴んでいるのを見て眉を顰める。 「なにしてんだ」 険しい表情をした瀬尾に俺は焦り、離してという意味をこめて掴まれた手を引くと、半田は少し考えるように視線を動かした後、口角を上げて俺の手を引き返した。その勢いのまま、半田に肩を抱かれる。 「告ってたりして?」 「ち……」 違う、と言おうとするけれど肩を抱く手に力がこもり、半田を見ると視線で言葉を止められる。 「は? そんなの絶対認めない」 「瀬尾に認めてもらうことじゃないし、矢崎のことは前から可愛いかもって思ってたし?」 半田がいつもの軽い口調で言うと、瀬尾の表情がますます険しくなる。 「瀬尾がどうしても矢崎のこと好きでしょうがないって言うなら諦めるけど」 「……っ」 瀬尾がはっとした様子で俺を見て、すぐに視線を逸らした。 「言えよ、瀬尾」 「……」 瀬尾も半田も睨み合うように互いを見つめ、緊迫した空気に俺のほうが身体に力が入る。でも、瀬尾の瞳を見たら言葉なんて必要なかった。
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