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「ただいま」は、ふたりで。
ある夜、そういえば、とふと思い出したメールアドレス。予備で作ったけれど全然使っていないままだった。まだ生きているだろうか。軽い気持ちでログインすると。
新着メール十八件。
メルマガかなにかだろうかと思って差出人の名前を見てびっくり。高校時代のクラスメイト、逢坂。
「うわ…」
そういえば一年半ほど前の同窓会で逢坂に連絡先を聞かれて、このアドレスを教えたっけ。
逢坂とは特に仲が良かったわけではなかった。それなのに連絡先を聞かれたことに俺は警戒して、メインのメールアドレスでも、メッセージアプリのIDでもなく、予備のこのメールアドレスを教えた。
まずい。まさか連絡してくるとは思わなかった。
古い順からメールを読んでいく。最初のメールは同窓会のあった日。
今日は会えて嬉しかった、という内容から始まり、順を追って読んでいくと、内容が、もしかして読んでない?というものになっていき、それでも送ってしまうことを許してほしい、というものになっていく。
メールは同窓会の日から毎月一通ずつ届いていた。
今から返信したら怒るだろうか。でも、このまま放置はしておけない。最後のメールは一昨日。内容は、同窓会での再会を喜ぶもの。
どうしたらいいんだろう。しばらく悩んで、決める。返信しよう。勇気を出して返信した。
本当に悪いことをしてしまった。こんなに長い期間、返信もないのに連絡し続けてくれたのか。警戒せずに最初からきちんとした連絡先を教えておけばよかった。だけどまさか、こんな風に連絡をもらうなんて思わなかったんだ。
一昨日のメールを読み返す。
―――もう一度仲田に会えたときには言いたいことがあったのに、言えなかった自分が悔しかった。
言いたいことってなんだろう。
とりあえず、一旦スマホを置いてシャワーを浴びる。
寝室に戻ってスマホを見ると、メールの通知がきている。確認すると逢坂からだった。
俺からの返信を喜ぶメール。怒ってないのかな。でも、『怒ってないの?』と聞くのも失礼な気がする。俺も返信する。
何度かやりとりしていると、『もしよかったら』とメッセージアプリのIDがメールに書かれていた。特にあぶない感じもなかったから、素直にメッセージアプリで書かれているIDを検索してメッセージを送ると、すぐに返信があった。
なんとなく、もう一度改めて謝る。
『仲田が返信くれたから嬉しい』
すぐにメッセージが返ってくる。なんでこんなに喜んでくれるんだろう、と不思議に思う。
一年半前に会った逢坂は、高校時代から変わらずスマートな美形男子だった。三十前になり、年を重ねた分だけ魅力が増していた。雰囲気も昔以上に柔らかくなっていたと思う。もう結婚しているのかと思ったら、まだ独身だと言っていた。
『仲田、今、付き合ってる人いるの?』
タイミングよく、そんなメッセージがきて笑ってしまう。いるわけない。
『いないよ』
すぐ答えが返せる。逢坂と違って、どこからどう見ても平凡な俺はモテない。
明るくて、誰とでもすぐに仲良くなる逢坂。高校の頃も逢坂のほうからよく話しかけてくれたけれど、俺はたいした返事もできなかったと思う。そのせいで仲良くなるまでいかなくて…。それなのに、どうしてあんなに連絡をくれたんだろう。
「……」
逢坂はいつも優しい笑顔をしていたっけ。その笑顔を傷付けた気がして胸が痛くなる。もう一度『本当にごめん』と送ると、『気にしなくていいよ』と返ってきた。気にしないわけにはいかない。一年半も放置したんだ、怒られて当然なのに。
『なにかお詫びがしたい』
送信。
俺にできることならしたい。おかしなことを言ってきたらどうしよう、と一瞬思ったけれど、逢坂なら大丈夫そうな気がした。
それまですぐに返信があったのに、五分ほどスマホが鳴らなかった。寝たのかな、と思っていたら通知音が鳴った。
『じゃあ、デートして』
デート………デート!?
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