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逢坂とのデート当日。
俺は一時間前に待ち合わせ場所に着いてしまった。ずっと緊張している。デートなんてしたことがないから作法がわからず、どうしたらいいかわからないし落ち着かない。
「……さすがに早すぎたよな」
時間を確認してちょっと笑う。でも、自宅でも室内をうろうろしてしまって、どうしようもなかったんだ。待たせるよりいい、と思い、ぼんやりとスマホをいじった。
「仲田!」
「!」
呼ばれて顔を上げると、逢坂が立っている。あれ?と思って時間を見ると約束の二十分前。
「早くない?」
「仲田こそ。ごめんな、待たせて」
「いや、俺が早すぎただけだから」
ぼんやりと逢坂を見ていると、逢坂が首を傾げる。
「なに?」
「あ、ううん…」
「?」
キラキラが舞っているように見えただけ、と言ったら笑われるかも。
「久しぶり。変わってないな、すぐわかった」
「逢坂も」
「行こうか」
「うん」
緊張する。隣を歩いているのは俺でいいんだろうか、と思ってしまう。なんとなくちらちらと逢坂の顔を見ると、ずっとにこにこしている。なんでこんなに機嫌がいいんだ。
「仲田、コート買わないとって言ってただろ。見に行かない?」
「いや、今日じゃなくても…」
「俺、選びたいんだけど…だめ?」
「……いいけど」
ふたりでコートを見に行く。逢坂は真剣に選んでくれて、俺は緊張。何軒か店を回る。
「逢坂、適当で大丈夫だよ。疲れるだろ」
「全然。仲田の身に着けるものを一緒に選べるなんて最高」
にこにこ楽しそうにしている。本当に大丈夫かな。面倒じゃないかな。
「やっぱ、さっきの店のがいいかも。連れ回しちゃってごめん。仲田、疲れてない?」
「大丈夫。じゃあ戻ろうか」
逢坂と店を出て、先程行った店に戻る。俺も逢坂になにかお返しがしたいんだけどな。
「…ごめん、逢坂」
「なにが?」
突然謝る俺に、逢坂が不思議そうな顔をする。
「俺もお返しに逢坂のものなにか選ぶとかしたいけど、センスないし、俺に選ばれても嬉しくないよな…」
「そんなことない!」
「えっ」
逢坂が少し大きな声を出すので顔を見ると、目がキラキラしている。
「仲田が俺のもの選んでくれるの? すごい嬉しい! 俺、マフラー買いたいから、選んでくれる?」
「あ、うん…。でも本当にセンスないんだけど」
「俺、仲田が選んでくれたものを身に着けたい」
すごい笑顔。こんな風に言われたら頑張るしかできない。
俺がコートを買う店と同じ店で選んでほしいと言うので、俺は真剣に選ぶ。逢坂に似合って、逢坂がもっとかっこよく見えるといいなと思いながらマフラーを選んだ。
買い物を終えて、気が付いたらお昼過ぎだった。時間なんて全然気にしていなかった。
なにを食べようかと相談していたらふたりともどんどんお腹が空いてきたから、どこでもいいかってことになり、一番近くにあるカフェに入って遅い昼食にした。
「メールずっと返信しなかったの、本当にごめん」
「まだ言ってる。もういいよ」
「実はさ……」
メールを返信しなかった理由を話してもう一度謝ると、逢坂はやっぱり「気にしないで」と微笑んだ。
「もともとそんな仲良かったわけじゃないんだから当然だよ」
逢坂は全然怒らない。だから俺は余計申し訳なくなる。
「……なんであんなに連絡くれたの?」
気になっていたことを聞いてみると、逢坂は一瞬固まって、それからまた微笑んだ。それが少し照れているように見えるのは気のせいだろう。
「俺さ、ずっと仲田が気になってて」
「ずっと?」
っていつからだ。気になるってどういう意味で?
「うん。高校のときから、ずっと」
高校のときから…十年以上も?
「仲田ってひとりでいること多かっただろ? つい声かけたくなっちゃうんだよな。いつも気になっちゃって。高校卒業で離れてからもずっと、ふとしたときに仲田の姿が頭に浮かんで…どうしてるかなって」
過去を思い出しているのか、遠くを見つめるような瞳をする逢坂。その視線が再び俺を捕まえる。
「一回目の同窓会は仲田、参加しなかっただろ」
「うん」
「だから、もう二度と会えないのかなって思ってた」
切なげな表情に胸が苦しくなる。なんだろう、これ。
「でも、一年半前のとき、仲田がいてすごく嬉しくて。勇気出して連絡先聞いたんだ」
「……返信しなくてごめん」
「結果的には返信してくれて、今こうやってデートしてくれてるだろ?」
「デート」って口に出されると頬が熱くなる。
「俺、野良猫に振り向いてほしいタイプなんだ」
「?」
「そんな感じ、仲田って」
優しい笑み。
「俺、猫?」
「警戒するし、懐きそうで懐かない感じがね。だから気になって仕方ない。気が付いたら頭の中、仲田でいっぱい」
「?」
俺が疑問符を浮かべていると、逢坂は「わからないならいいよ」と笑った。その笑顔は今まで見た中で一番優しくて、どきっとしてしまった。
「そうだ。俺にもう一度会えたときに言いたかったことってなに?」
「なんだっけな」
「忘れた?」
「覚えてるけど忘れた」
「?」
よくわからないけど、はぐらかされたみたいだ。「??」な俺に対して、逢坂は満足そうに微笑んでいる。
昼食はお詫びとお礼の意味で俺がふたり分払った。
その後はデパート内の特設展を見たり、駅ビルなどを見て回ったりしていたらあっという間に時間が経ってしまった。気が付くともう夕方。
「……また会いたいな」
逢坂の言葉に、俺は躊躇うことなく頷いた。
それから逢坂と頻繁に連絡を取るようになった。徐々に逢坂からのメッセージが楽しみになり、やりとりをする時間が心地よくなっていく。仕事の疲れとか嫌なことがあっても、すっと楽になれる魔法の時間。
気が付くとスマホをチェックしている。そわそわしている自分がちょっと恥ずかしい。
今日も仕事を頑張れそうだ。
『お疲れさま』
逢坂からのメッセージ。知れば知るほど逢坂は優しい。でも、ちょっと抜けているところがあったりして、そういう発見が嬉しかったりもする。
「……」
逢坂の笑顔を思い出すと胸が高鳴る、気がする。けど、たぶん気のせい。
スマホの通知音が鳴る。
『またデートしない?』
口元が緩む。返事は決まってる。
『する』
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