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聡一とは大学で仲良くなった。学部が同じで、気が付いたら一緒にいた。俺が和弘と付き合い始めたときもお祝いをしてくれたし、いつも俺の相談相手になってくれたのに。
聡一と和弘はそんなに仲がいいってわけじゃなかった。だからと言って仲が悪いわけでもない。会えば話をしていたようだし、三人で一緒に食事をしたこともある。
でもなんで俺? この、取り立てて目立つところのない俺のどこが好きだと言うんだろう。
からかっている感じじゃなかったし、酔っていてもそういう冗談を言う奴じゃないから、本気なんだろう…たぶん。
和弘が俺と付き合ってくれたのは…俺が告白したときに緊張しすぎて泣き出したのがよかったのか悪かったのか…和弘の優しさから、お情けで付き合ってくれていたんだろうけど、聡一は情に流されるタイプじゃない。和弘に振られた俺が可哀想でってわけじゃないだろう。
本当になんで?
…今度からどんな顔をして会えばいいんだろう。
「よお」
「!」
なぜか、聡一が俺の部屋の前にいる。
「あ、あの…聡一…」
「どんくせーな。また残業してたのかよ」
「え」
「振られた翌日に残業って、どんだけ仕事好きなんだよ。どーせまた先輩に仕事押し付けられたんだろ」
「………」
やっぱ、昨日は酔ってただけかも。こいつが俺を好きとか違うわ。ないわ。
「早く鍵開けろ」
「……」
「早く」
「………」
開けたくない。けど開けないと俺も部屋に入れないから仕方なく鍵を開けると、俺より先に聡一が室内に入って『暑い』と一言。勝手にエアコンをつけて勝手に冷蔵庫を開けて勝手にビールを飲んでる。なにこいつ。いつもどおりすぎる!
「聡一!」
「なに」
「『なに』はこっちが言いたいんだけど!」
「なにが?」
ビールを飲みながら振り返る仕草がかっこよくて、うっとなる。くそ、悔しい。
「だって昨日!」
「うん」
「お、俺を…」
「うん」
俺を。俺を……。
「……」
「達樹を?」
「………」
「達樹を、なに?」
「…………」
ちょっと意地悪に見える笑みを浮かべる聡一。…なんか、言いたくない。
「…なんでもない」
目を逸らして俺もビールを出して飲む。
「ていうかさ、ああいうことは酔った勢いじゃなくて花でも持って言うもんじゃないの?」
悔しさのあまりそんなことを言ってみる。別にそんな理想は持っていない。ただ、なにも言わずにいられなかっただけ。
すると聡一は目を見開いてから、にやりと口角を上げる。嫌な笑いに固まってしまう。
「へえ…」
なぜか聡一が近付いてくる。俺は逃げる。でもすぐに壁に背が付いた。聡一が目の前に迫り、俺に手を伸ばす。
「ひっ」
むぎゅっと俺の鼻をつまんで。
「好きだ」
「その“はな”じゃない!」
真剣に言うので、むっとして言い返す。それにまた酒飲んでんじゃん。酒なしじゃ言えないのか。
「あーあ…和弘みたいな紳士はどこにいるんだろ」
俺がビールを一口飲んで呟くと、聡一は眉を顰めた。思った反応と違う。『なんだよ、俺だって紳士だろ』くらい言うかと思ったのに。妙に怒りをはらんだ瞳で俺を見るので、ちょっと背筋が寒くなる。
「……紳士じゃなくて悪かったな」
ビールを飲み干し、缶をペキッとへしゃげさせる聡一。そのいびつな缶の形が聡一の心情を表しているようで少し焦る。
「なんでそんな怒ってんの」
「さあな」
「………」
「………」
それっきり黙ってしまった聡一にどうしたらいいかわからず、ただ静かに聡一が手に持つ缶を見つめる。呼吸をしていいのかもわからないような沈黙。息を吸って吐くのも気を遣う静けさの中で緊張する。
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