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いつもそばに
―――達樹って、どこか俺と距離置いてるよね。
「え?」
―――なんか…信頼されてないみたいに感じる。
「そんな…」
―――もしかして、俺のことそんなに好きじゃなくなった? ううん、最初からそんなに好きじゃなかった?
「ちが」
―――無理しなくていいよ。
「無理なんて…!」
―――別れよう。
「―――って言われたんだけど!!」
「そりゃ、実際距離置いてたんだから、しょうがないだろ」
「だって、あんなに顔よし頭よしスタイルよし性格よしな男が俺みたいなのいつまでも相手にするわけないじゃん! いつか絶対捨てられるんだから、距離置いてないとそのときショックじゃん!!」
「そういうの自業自得って言うんだよ」
「聡一のばか!!」
ビールを一本開けて一気に飲み干す。友人の聡一も顔よし頭よしスタイルよしだけど性格はあまりよろしくない。こういうときは優しく慰めてくれるものじゃないか。三本目のビールのプルタブを上げる。
…振られて『やっぱり』って思ってる自分はいるんだけどさ。
「まあ、忘れるのが一番だな」
「無理」
「なんで」
「…今でも好き」
「じゃあなんで距離置いて付き合うなんてばかな真似したんだよ」
「ばかって言うなぁ!!」
空き缶を聡一に投げつける。聡一の部屋だけどやりたい放題。でも、ひょいと躱されて缶はベッドに当たった。
「……じゃあ、新しい恋だな」
「は?」
「失恋には新しい恋って言うだろ?」
聡一らしいポジティブな発言。でもそんな気分にはなれない。そもそも相手もいない。
「無理無理」
首を横に振る。
「なんで」
聡一が俺の顔を覗き込むので、距離の近さに頭を引く。
「相手いない。って近い」
「いるだろ」
「いないよ。離れろ」
離れろと言っているのにますます顔を寄せてくる。酔ってるのか。顔を押しのけようとしたら、その手を掴まれて手のひらに唇を当てられた。
「いるだろ、ここに」
「は?」
「達樹」
「え?」
「好きだ」
驚きのあまり、加減できずに思いきり聡一の顔を押しのけてしまった。
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