いつもそばに

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「………ごめん」 先に沈黙を破ったのは聡一だった。 「比べられて、腹が立った」 「……俺こそ、ごめん」 確かに、元彼と比べられたら腹が立つかもしれない。深く考えていなかったとは言え、俺の言い方も悪かった。俺の手に持つ缶のビールはもうぬるくなってしまっている。 「本当に、達樹が好きなんだ」 今度は真剣な告白に俺の心臓が跳ねる。昨日の今日で、そんなにころころ心が移るようではいけないと自分を戒めるけれど、心臓の高鳴りを止められない。聡一を見ると、まっすぐ俺を見ている。 「…なんで、俺?」 「気が付いてないの、達樹だけだよ。和弘も気付いてる」 「うそ」 「ほんと」 「まさかそれで振られたのかな」 聡一がゆっくり首を横に振る。 「そんなことで振らないくらい和弘はおまえが好きだったはず」 少し寂しげに揺れる髪に、心臓が今度は違う動きをする。締め付けられるような、苦しいような。 「達樹は俺と仲良くなったきっかけ、覚えてる?」 「気が付いたらそばにいたとしか…」 「うん。そうだな」 遠くを見る瞳に吸い寄せられる。なにかを懐かしむような瞳。 「『あいつが好きなの? 連絡先聞いてきてやろうか?』」 「あ」 「俺が達樹に初めて話しかけた言葉」 そうだった。最初、聡一は和弘の連絡先を聞いてきてくれようとしたんだった。でも俺は断って、それをきっかけに聡一と仲良くなったんだ。結局、聡一の言葉が俺の背中を押して、自分で和弘の連絡先を聞いたんだけど。 「一生懸命和弘のこと目で追いかけては表情ころころ変えてる達樹が気になるようになって、声かけた」 「うん…」 「話してみたらなつっこいし、面白いし、すぐ好きになった。でも達樹が好きなのは和弘だからって我慢してた」 我慢させていたんだ。辛そうな聡一の表情に、俺にもそれがうつってくる。 「それからはずーっと苦しいだけ。おまえの友達に収まったけど、和弘との惚気を聞かされるたびに心にとげが刺さってく」 謝るのが適当かどうかわからず、なにも言えない。ただ黙って聡一の言葉を聞く。 「いつか捨てられるのがわかってるから距離置いて付き合ってるって、なんだそれって思ってた。だったら俺にしろよって何度も思ったし、言おうとした。でも、それでも達樹が幸せならいいやって思ってたけど……」 聡一が苦しそうに表情を歪めて俺を見る。 「もう我慢しない。達樹が好きだ。何度でも言わせてほしい」 …どうしたらいいんだ。こんな真剣にまっすぐ深く想ってくれていたなんて知らなかった。 「……考えさせて」 なんとかそれだけ答えた。聡一は頷いて帰って行った。部屋がすごく静かに感じる。 これまでの聡一とのことを思い出す。 いつもそばにいてくれて、いつでも最後には俺が笑顔になれるようにしてくれていた。いいことがあっても嫌なことがあっても一緒に酒を飲んでくれた。一緒に笑ってくれたし、一緒に落ち込んでくれた。 思い返せば和弘以上に俺のそばにいてくれたし、和弘とは、捨てられて当然だからと距離を置いて付き合っていたけれど、同じイケメンなのに聡一とは距離を置いていなかった。俺は聡一に捨てられる心配をしたことがない。 和弘といたときは緊張したけれど、聡一といるとむしろ気が緩みすぎるくらいで、緊張とは無縁、いつも自分でいられる。 俺は、和弘のことは仕方ないで済ませられるけれど、聡一が離れて行ったら仕方ないで済ませられない。絶対にすがりつく。 「……なんだ」 答えなんてもう出てるじゃん。
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