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◇◆◇◆◇
「慶太先輩…」
「だめ。もう今週はした」
愛生が顔を近付けてくるのを押しのけて逃げる。もちろん愛生はすぐに追いかけてくる。
「いいじゃないですか! もう一回!」
「だめだ。週に一回って約束」
愛生の部屋での攻防。
夏休みになり、愛生はほぼ毎日俺の家に来る。そのまま俺の部屋でふたりで過ごしたり、愛生の部屋に行ったりしている。
週に一回のキスは予想を反して守られている。というか俺が守っている。週一回以上させない。
「慶太先輩」
「な、なに」
真剣な顔をされて少し怯む。なんだ。
「先輩だって週一回以上したいんでしょう? わかってるんですから」
「…したくないし、そういうのは」
「慶太先輩…」
また顔を近付けてくるから避ける。
正直、週一回以上してもいいかと思うけれど、キリがなくなりそうでさせない。どこでもキスされるようになったら困るし。
「恋人なのに!」
「嫌なら別れればいいだろ」
あ、まずい。
「…慶太先輩」
「………なに」
やばいな。この静かな愛生の声、怒ってる。
愛生の感情が声の具合でわかるくらいには愛生のことを知った。
「別れたいんですか」
「……」
「答えてください」
「……」
答えたくない。夏休みになって毎日のように一緒に過ごしているうちに、愛生のそばにいるのっていいな、と思ってきているけど、言いたくない。
俺が顔を背けると、愛生が俺の頬を両手で包んで、正面から愛生を見るように向きを戻された。顔が熱くなってくる。
「先輩、その顔は反則です」
「…?」
「ものすごく可愛いです…!」
「うわ…!」
勢いよく腕を引かれて体勢を崩す。床に倒れ込むけれど衝撃はそんなにない。目を開けると愛生が俺の下敷きになっている。
「愛生…」
「すみません、先輩…つい興奮して」
「……」
いつも俺のことを一番に考えるんだよな。ほんとしょうがない奴。
そっと唇を重ねると、後頭部を包むように持たれてキスが深くなっていく。
「んー、んー!!」
口内に滑り込んできた舌を噛むわけにはいかないけど、じゃあ、どうやったら逃げられる? 必死で考えるけれど答えがわからないどころか、だんだん頭がぽーっとしてくる。
「んぁ……はぁ…っ」
唇が離れて愛生が至近距離で俺を見る。と思ったら腰に硬いものが当たった。
「……愛生?」
「すみません、先輩…」
「あっ…」
くるりと視界が反転して愛生に押し倒される。これはそういう状況…? どうしよう……嫌だと思ってない自分に『どうしよう』。逃げないとと頭では思うのに、身体が素直におとなしくしている。
「嫌だったらなにしてもいいですから逃げてください」
「……っ」
首にキスが落ちてきて、シャツの中に少し震える手が入ってくる。どうしよう…ほんとに嫌だと思ってない、俺。どうしよう……。
手を伸ばして愛生の髪に触れる。そのまま頭を抱き寄せると、鎖骨を舐められた。
「こういうことする意味、わかってるんですか?」
「……」
「答えないと、答えさせますよ」
「あっ…、あき…!」
鎖骨にちゅっと吸いつかれてチリッと小さな痛みが走る。顔を上げた愛生は、余裕のない瞳で俺を見ている。
どうしよう、と思いながら自分でシャツを捲り上げて肌を晒してしまう。
「先輩…」
「……」
「この行動の意味を教えてください」
捲り上げたシャツを噛んでくいっと引っ張る愛生の色気にくらくらする。愛生の頬に手を添えて輪郭をなぞる。
「先輩。教えてください」
まっすぐな視線が絡みついて身体の芯が熱くなる。
愛生が同じように俺の頬に触れて輪郭をなぞった。
「………いい、から」
「なにがいいんですか?」
「………」
「先輩」
意地悪な愛生に視界がゆらゆらしてくる。なんでこんなことで、と思うのに涙が目尻から零れた。その涙を愛生が唇で拭ってくれる。
「先輩…?」
「…いじわる…あき、いじわる……っぅ…」
「あー…もう……」
ぎゅっと抱き締められて髪を一撫でされると、更に涙が溢れてしまった。なんだろう、この涙…と思うくらい、俺自身は冷静なのに身体が言うことを聞かない。
「すみません、先輩。意地悪なこと言いました」
「っく……あき、いじわる…」
「ごめんなさい。先輩があまりに可愛いから、つい…」
ちゅ、と唇が重なってから、頬や額にキスが落ちてくる。
「……あき、して」
「え? なにを?」
「………」
「ああ、泣かないで、先輩…!」
愛生の背中に腕を回してぎゅっと抱きつくと、愛生の吐息が熱くなった。貪るようなキスが与えられ、思考が霞む。
「絶対逃がしませんからね…」
ベッドに運ばれ、肌にキスがたくさん落ちてきた。シャツを脱いだ愛生が俺の身体中を味わうようにキスをして、指が奥まった部分に触れた。俺に確認するので頷くと、指が挿入ってくる。変な感じ。
愛生が俺の身体を開いていく。なにひとつ見逃さない、と愛生は正面からじっと俺を見る。
じっくりとほぐされて指が抜かれた。緊張のどきどきと期待のどきどきが混じり合って心臓を跳ねさせる。
愛生がゆっくり挿入ってきて、中がいっぱいになっていく。
「あき…っ」
「慶太先輩…」
唇が重なり、甘いキスに力が抜ける。愛生が動くとまた変な感じがした。でもすぐにわけがわからなくなった。昂りが同じ場所を擦ると痺れる快感に声が止まらなくて恥ずかしい。
「あ、あ、んっ……あっ!」
俺を映す愛生の瞳が熱を灯していてぞくぞくする。気持ちいい場所を繰り返し擦られて、目の前がチカチカして愛生にしがみつく。
「そこ、だめ…だめ…っ」
「うん。だめですね。すごい締めてて千切れそう」
「ひぁっ!」
俺の昂りに触れた愛生が口元を緩める。
「ちゃんと感じてくれてて嬉しいです」
「あっ! だめ…いっしょにしちゃ……あっ!」
絶妙な力加減で昂りを扱かれ、昇り詰めていく。愛生の動きが速まり、限界に身体を震わせる俺の中で愛生も達した。
どちらからともなく唇を重ねて、舌と吐息を味わう。
「先輩…可愛い」
「あき…あき……」
「なんですか?」
「………すき」
脳が溶けてしまったのか、思ったことがそのまま口から出ていく。愛生が目を瞠り、それから微笑む。
「俺も好きですよ、慶太先輩」
「ん……キス」
「やっぱり慶太先輩もキスしたかったんですね」
ちゅ、ちゅ、と何度もキスをくれて、どんどん力が抜ける。好きだって言ってしまった。言ったらもう追いかけてくれないかな。
「あき……おれを、すきでいて」
「慶太先輩、眠いんですか?」
「ん……」
ベッドから愛生のにおいがするからか、すごく心地好くてふわふわする。愛生に抱き締めてもらいたくて、でも口がうまく動かないから愛生の背中に腕を回す。そうしたら心が伝わったのか、愛生がぎゅっと抱き締めてくれた。愛生の肌の感覚が気持ちいい。
「可愛い先輩…ずっと好きです。慶太先輩だけ好きです」
落ち着く声。
思考に靄がかかって、そのまま眠ってしまった。
夢の中でもずっと愛生にキスをもらって抱き締められていた。
END
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