第一部 第一章 蒼い涙 

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     ─6─静かな冬に  冬はあっという間に訪れた。  暖炉には赤々と炎がたかれ、ほの暗い室内を柔らかく照らし出す。  その暖かい光の中で、彼は相変わらず本を写すという作業を続けていた。  その作業に一体どんな意味があるのか、ボクにはまったく解らない。  一心不乱に作業を続ける彼を、丸まりながら見つめる日々が過ぎていった。  そんなある夜、彼はいつもよりかなり早くその作業を切り上げると、頬杖をつきながらボクに言った。 「今日は『年越しの祭』だ。孤児院……猊下からお誘いを受けているんだけど、来るか? あまり気は進まないけれど……」  それって、逆にすっぽかす方がまずいんじゃないの?  寝台から飛び下りると、ボクは彼の足元で鳴いた。  諦めた、とでも言うように小さく吐息をつくと、彼は静かに立ち上がると、大きく伸びをした。  防寒用のマントを神官の長衣の上から着込むと、彼はボクを促して外にでた。  はりつめたような冬の外気に身震いするボクを、彼は問答無用で抱き上げた。 「降って来たら雪だろうな」  呟く彼の胸元で、ボクは注意深く周囲を見回した。  どこの部屋にも明るい光が灯っている。
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