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濡れた髪を拭くことなく、彼は布団の中へと潜り込む。
今のボクにできること。
それは、彼の側にいること。
寝台に飛び乗ったボクは、彼の足元で丸くなった。
その夜、ボクは何度となく彼の呻き声で目が覚めた。
子どもの頃の記憶が、戦場での体験と共鳴して揺り動かされたのだろうか。
そのたび、ボクは彼の枕元へと走り、不安げに彼を見つめた。
目覚めた彼はボクの顔を認めると、苦笑いを浮かべボクをなでる。
そして決まり悪そうに布団を頭から被る。
そんなことを繰り返し、夜は過ぎていった。
※
その日から、彼は変わった。
まず、部屋の片隅にある暖炉の上に香炉という物が置かれ、昼夜関係なく邪気避けのお香が焚かれた。
もうもうと室内に漂う煙にくしゃみするボクの頭を彼はくしゃくしゃとかき回したけれど、その顔に笑みはなかった。
そして彼自身はと言うと、あれだけ似合わないと自負していた神官の長衣を身にまとい、ミミズが這いずったような文字が延々と続くあの分厚い本を書き写し始めた。
日に三度、食堂に立つ時と眠る時以外はそれこそ脇目もふらず、と言うように。
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