ふるえる君にあたしは何をしてやれるのだろうか

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 時は流れ、世間はクリスマスシーズン。そして迎えたクリスマス・イブ当日、あたしは会社の残業で過ごした。お局サマに春が来たらしく、そのお鉢があたしに回ってきたのだ。  ちなみに、あたしに彼氏はいない。同じく彼氏のいない友人達からクリスマスパーティーに誘われて行く準備もしていたのだが、仕事故にドタキャンで断った。後ろ髪を引かれる思いであった。  残業が終わりジングルベルが聞こえる街中を歩いていると、真白い雪が降ってきた。 ホワイトクリスマスである。街は瞬く間に冷たい雪に包まれて閉ざされていく。 「さっむ! さっさと帰って寝よ!」 団地の敷地内も雪に包まれ閉ざされていた。豆腐を拍子木切りにしたような無個性な団地の建物に雪が積もる様は、粉チーズを上からふりかけた豆腐のようだ。あたしはこんな下らないことを考えながら自分の部屋がある棟に向かって歩いていた。  すると、雪に包まれた静寂を割くようなすすり泣く声が聞こえてきた。 あたしは辺りを見回した。すすり泣く声が聞こえるのは、すぐ近くの一階のベランダからだった。窓の灯りはなかった、クリスマスの夜故に出かけているのだろうと考えた。 そのベランダには、白ブリーフ一枚のほぼ丸裸の少年が体育座りをしながら俯いて全身をふるわせていた。あたしはベランダの手すり越しにその少年に向かって叫んでしまった。 「君! どうしたの!」 あたしの声に呼応するように少年は首を上げた。少年はかつてあたしの家を訪ねてきた宗教二世の少年だった。風に雪が乗ったのか髪の毛や鼻先に雪を積もらせ、頬は真っ赤に染まり、歯をガチガチとふるわせ、唇は紫に染まっていた。 このままでは凍死してしまう! あたしはポケットからスマホを取り出し、警察と救急車を呼ぼうとした。しかし、少年は(かじか)んだ手を伸ばしながら震える声で述べた。 「やめて…… やめて…… お母さんに怒られちゃう…… いいんです…… 僕が悪いんです…… 気にしないで下さい……」 気にしないで下さいと言われても、この真冬の雪の中にほぼ丸裸でいる少年を放っておける筈がない。これは紛うことなき児童虐待。警察を呼んで保護してもらうべきである。 通報すればすぐに警察は来るだろう、それこそ5分以内だ。 だが、あたしはその5分すらも少年をこんな極寒地獄なんかにいさせられないと考えた。  あたしは少年に向かって手を伸ばした。 「こっちに来て!」 「え…… え……?」 あたしは大きな声で叫んだのだが、窓の灯りは点くことはなかった。やはり、出かけていると言うのだろうか。だが、今はそんなことはどうでもいい、少年を保護することの方が大事だ。
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