ふるえる君にあたしは何をしてやれるのだろうか

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 あたしは脱衣場に着替えとタオルを置きに行くことにした。脱衣場のドアを開けると、一糸纏わぬ少年の姿がそこにあった。あたしの姿を見た少年は股間を隠しながらくるりと踵を返した。晒された尻には夥しい数の蚯蚓腫れが出来ており、ニホンザルの尻のように真っ赤になっていた。 「あ、ごめん。着替えとタオル」 「あ…… ありがと……」 あたし達はリビングでテーブルを挟んで向かい合った。あたしは少年にホットミルクを差し出し、飲むように促した。 「温かくて、落ち着くよ。ゆっくりで良いから飲んで」 少年はホットミルクをゆっくりと呷った。あたしも同じものを呷り喉が温く湿ったところで、あたしは重い口を開いた。 「えっと、どうしてベランダにいたの? しかもあんな格好で」 少年は軽く俯き、暫し沈黙した後に重い口を開いた。 「僕が…… 悪いんです。悪魔祭(サバト)に出たから…… お母さんが怒って……」 悪魔祭(サバト)なんて、ファンタジー小説や西洋史で魔女狩りの講義でも受けてなければ聞かない言葉だ。あたしは思わずに首を傾げてしまった。 「お姉さん、こういうのよくわかんないな? そうだ、今日はクリスマスイブだよね? そんな名前のパーティーだったのかな?」 少年は首を横に振り、あたしの言うそれを否定した。 「普通のクリスマスパーティー。学校の帰りに友達に誘われて、スッゴク楽しかった。皆でケーキ食べたり、チキン食べたり、歌ったり、プレゼント貰ったり、僕がこういうの駄目な宗教やってるのを知ってる友達が気を使って誘ってくれたんだ」 「いい話じゃない」 「でも、僕の宗教では悪魔の行為だから駄目なんだ。誕生日も、お正月も、バレンタインも、七夕も、節分も、ひな祭りも、全部禁止なんだ」 全く以て意味がわからない。あたしは首を傾げるばかりだった。 少年は続けた。 「これ全部、偶像崇拝になるの…… 僕の宗教では崇拝するのは『我らがお父様である神様』だけ、その他を崇拝することは悪魔を崇拝することになるから駄目なの……」 「ああ、あたしはよくわかんないけど金の牛を崇拝がどうとかって話? 大学の時の宗教学の講義でちょっとやったかな?」 「今日、パーティーが終わって家に帰ったら、友達から貰ったプレゼントをお母さんに見られたんだ。そうしたら凄く怒り出して。『こらしめの教育』を受けることになったの…… それでも怒りが収まらなかったのか、パンツ一枚にされてベランダに出されちゃった……」 あたしは一旦話を止めさせた。
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