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「待って待って、『こらしめの教育』って何なの? ああ、言いたくなかったら言わなくていいよ?」
少年は再び暫しの沈黙に入り、カップの中に僅かに残ったホットミルクを啜った後、徐に口を開いた。
「さっき…… 僕のお尻見ましたよね?」
「あ、ごめん……」
「聖書にこんな言葉があるんです『鞭を与えないことは自分の子を憎むこと。子を愛するなら熱心に努めなさい』『鞭と叱責は知恵を与える。我儘にさせた子は、母に恥を与える』って」
正直なところ、聖書の聖句なのは分かるが、意味がよくわからない。
ただ、子供に鞭を与えることで身を糺すと言った意味なんだろうと言うことはなんとなくだが分かるのであった。気になったのは、聖句を述べる時だけは子供らしい口調が崩れて大人のような口調になったことだ。これだけで少年が熱心な宗教教育を受けていると言うことがわかってしまった。
あたしは何故か胸が痛く感じた。その勢いに乗り、脊髄反射的に率直な意見を口走ってしまった。
「ただの虐待よ」
「僕のやってる宗教の子供はみんな鞭で叩かれて育つんです…… 僕も…… 物心がついた時にはお尻を叩かれてました…… 始めは集会が退屈でムズムズしたりとか、集会に行きたくないってグズった時だけだったんですけど…… 小学校に入ってから友達と遊ぶためにゲームや漫画が欲しいって言った時も鞭で叩かれました…… 漫画やゲームは悪魔の誘惑だって…… 最近は聖書研究の解釈の違いでも叩かれるようになったんです」
集会も聖書研究も何のことかはよくわからないが、少年の宗教で行っている行事だろう。
「誰か、大人の人に相談はしたの? その、集会って言うのかな? 他の大人の人だっているんだし……」
「大人の人達も鞭で叩かれて育ってるんです。『鞭で叩かれるのは心に入った悪魔を追い出すためだから仕方ない』って、悪いのは僕だって」
子供に鞭の痛みを与えて宗教の教義に従わせているだけじゃないか。こうして鞭を受けた子供は、大人になった後に、同じ方法で痛みを与えて従わせる。こうすれば「素直に従う子供」になることは我が身で知っているのだから……
この少年の宗教はこうして連連と繋いで存続しているのだ。
実に悪質で低次元な君臨の方法であるが効果的としか言いようがない。
「学校の先生には?」
「言ったら、児童相談所が来てくれたよ。隣の部屋の人も僕の叩かれた声を聞いて、警察に通報して来たこともあったよ。でも、お母さんやヒマワリのバッジつけた兄弟が『しつけ』とか『みんじふかいにゅう』とかって難しいこと言うと、帰っちゃうんだ。その後は、またお母さんが『何でそんなこと言った!』って鞭で叩くの」
宗教側も「疚しい」と自覚があるのか、対策していると言うことか。ヒマワリのバッジと言うところ、お抱えの弁護士がいると言うことになる。兄弟と呼んでいるところ、同じ信者だろうか。そんな本職に「躾」「民事不介入」と言われてしまえば警察も児童相談所も回れ右か。
実に小狡い。
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