ふるえる君にあたしは何をしてやれるのだろうか

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「そう言えば、お父さんは? ほら、いつもお母さんと二人で(ここ)に来るじゃない? お家にお見えになるの?」 少年は首を横に振った。 「死んじゃった。輸血が出来れば手術出来る病気だったんだけど、輸血を拒否したせいで死んじゃった。聖書に『血を食べてはならない』『血を食べると災いがある』って聖句があって、そのせいで僕の宗教では輸血出来ないの」 「そうなの…… ごめんね……」 「いえ、いいんです」少年がそう言った瞬間、大きな欠伸をした。もう天辺も近い時間だ。 あたしも眠い。寝ることにしよう。 「寝ようか。そうだ、お母さんも心配するだろう(子供を真冬のベランダに放り出す人間が心配をするとは思えないが)から、警察に君を保護してるって連絡するね?」 「え…… あ…… はい……」 「君、何回も(うち)来てるけど『お名前』聞いてなかったよね」 「まさよし…… 真実の真に、理科の理って書いて真理(まさよし)って読むの。聖書の真理を知る子になって貰いたいから付けたんだって。この名前、僕の宗教じゃあ付けられる子、多いんだよ?」 名前も宗教を(ゆかり)としたものか。宗教二世の実体をまざまざと見せつけられたあたしは恐怖で身をふるわせてしまうのであった……  真理くんが寝静まった後、あたしは警察に連絡し事情を説明した。勝手に連れて行ったと言うことで未成年者略取誘拐罪に問われる筈なのだが、非常事態と言うことで「保護」として見てくれるとのことだった。ただ、母親が訴えてきた場合はその限りではないと不安なことを言われ、恐怖で体がふるえてしまった。 警察はあたしの電話を受けて、すぐに真理くんの家へと急行した。母親はと言うと、寝起きの実にだらしない格好で出迎えたと言う。真理くんをベランダに出したのは悪魔の行為であるクリスマスパーティーに出たことに()る折檻。それ以上でもそれ以下でもないとのことだった。 その後、母親は虐待の容疑で逮捕。真理くんが「これまでの過去」を全て警察に証言したことで容疑は明白。その身を女子刑務所に預けることになった。
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