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願いを託し、急ぎぎみに引っ張りだした。顔を出したのは、短めのレシートだった。
これでは、どう頑張っても餞にならない。怖さを和らげられない。他に何かないのか――辺りを見回す。
ふと、いつかの婚姻届が目についた。棚の上に、ひっそりと置かれている。
――そうだ。
父親が僕の行動を悟り、片手をあけてくれた。レシートをそっと、空いた手のひらに乗せる。
「なんだと思う?」
「………………わかん……ない」
「正解は天国への切符でした。いい子の花ちゃんに、神さまがあげてねって言ってたんだ」
乗せたレシートが僅かに動く。皺一つ寄らなかったが、握りしめているのだと分かった。木漏れ日のような笑みが、ふわりと浮かび上がる。
「……じゃあ、私……天国、行けるのね……」
「うん、ポケット空けてお土産待ってるよ」
分かったわ――声のない約束だった。花ちゃんは眠り姫に戻り、少しして切符を切った。
僕のポケットには、今でも時々忘れ物がある。けれど、花ちゃんのいた部屋に近づく度、急いで空にしている。
今日のガラクタは、使用済みの付箋だった。花ちゃんなら、これをどう輝かせるだろうか。
きっと、僕には唸っても編み出せないような、宝物にしてしまうんだろうな。
考えては、今日も部屋をノックした。
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