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パッと見た感じ周りに人は見当たらないけれど、もしかしたら近くに人が居るかもしれない。
その僅かな望みに懸けた彼女が「誰か、助けて――」と大声を上げようとした刹那、詩歌の後方に立っていた金髪ロン毛で一番背の高い男に口を塞がれてしまう。
「んんっ! んー!」
それには予想外だったのか、口を塞がれた詩歌は塞ぐ手から逃れようと必死にもがくも男の力に敵うはずもなく、
「ほら、大人しくしないと……痛い目に遭うよ? この意味、分かるよね?」
更には彼女の前方に立っていた短髪茶髪で小柄な男がズボンのポケットから小型のナイフを取り出すと、刃先をチラつかせながら大人しくするよう脅してきたのだ。
そうなるともはや打つ手はなくなり、大人しくせざるを得ない。
恐怖に怯えた詩歌の力が抜けたのを見計らった四人はビルの横にある袋小路へ連れ込もうと彼女の身体を持ち上げた、その時、
「――うるせぇなぁ……せっかく人が気持ちよく昼寝してたってのに邪魔しやがって……」
廃ビルの裏口が開くと同時に一人の男が欠伸をしてボサついた黒髪の頭を掻きながら呑気に姿を現した。
「何だ、テメェは」
「それはこっちの台詞だっての。男四人がそんな子供一人に群がりやがって……どうしようもねぇな」
「うるせぇよ! テメェには関係ねぇだろーが!」
馬鹿にされた事に腹を立てた短髪茶髪男がナイフ片手に黒髪男へ振りかざす。
その光景がちょうど見えていた詩歌は、黒髪男が殺されると思い、恐怖から咄嗟に目を瞑ったのだけど、
「うっ……」
という呻き声と共にカランカランと地面に何かが落ちる音が聞こえたと思ったら、
「ゲホッ……ゴホッゴホッ」
今度は深く咳き込み、もの凄く苦しそうな声なのが心配になった詩歌は恐る恐る目を開いてみると、
(え……?)
蹲って咳き込んでいたのは黒髪男ではなく、短髪茶髪のナイフを持っていた小柄な男の方だった。
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