白い墓標に弔いを

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五  手紙の騒ぎから数年の月日が流れ、私の職場に一通の手紙が届いた。 雪だるま職人の仕事には後継者はいない、誰もここを訪れない、こんな職場に手紙を寄越して来るのは一体どこの誰だと言うのだろう。そんな心情で手紙を手に取ってみる。ひどく雪を被っているが、差出人は「ハント・アンテロープ」と書いてある。 『背景、デック・フロスティ殿。この度は、私ハント・アンテロープがシャルベットの国王に戴冠する運びとなりました事を、お伝え致します』 この名前は嘗て私の教え子だった生徒のものだ、あれからこの国の王になったのか? あの活発な少年が。手紙の文体から随分と成長したのが見て取れる。 『つきましては、フロスティ殿を、私の城にて雪だるま職人の棟梁として迎えたいと考えております。フロスティ殿が差し支えないようで御座いましたら、是非城にお越し頂きたいです』 「私を、城に? こんな老いぼれ城において役に立てるかわからないというのに」 『妻エリサもフロスティ殿との再会を待ち望んでおります。宰相クレバス・スタットレスも丁重なおもてなしを検討すると申しております。どうか検討して頂きたく、手紙を伝書鳩にて送信させて頂きました。追伸、寒いですがどうかご自愛下さいませ。ハント・アンテロープ』 教え子の一人だったエリサと結婚し、クレバスは宰相になったのか。三人とも偉くなったものだ。どうやら私の後継者を輩出するべく城の雪だるま職人になってくれと言っているようだ。少しではあるが曽祖父や親父がどんな気持ちで雪だるま職人を続けて来たかわかったような気がする。子供の成長を見届ける親の気持ちというのもこんな風だったのか。 「この国の風向きは変わったな」 私はそう呟くと重たい腰をあげ、職場の裏にある雪だるまに向かう。曽祖父と曾祖母、それから祖父母、親父とお袋の雪だるまだ。 「ありがとう、親父、お袋。私のぶんは、まだ先になりそうだ。許してくれ」 そう言って花束を足元に備えた。
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