白い墓標に弔いを

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二  「今日もみんなで雪だるまを作ろう」  ぼくは雪だるま職人を営む傍らで、その作りかたを子供たちに教える先生になった。雪合戦がなくなり、雪だるまを作る機会も減って来たので仕事の特技を活かした気分転換として始めてみたが雪だるまを初めて作ろうという子供たちにたちまち人気になってしまった。  「俺はカッコいいきつねを作るぞ!」  活発な少年ハント・アンテロープは雪をせっせと丸め始めた。冷たい雪を素手で握りながら作ろうとするなど、本当に元気な子だ。  「私は可愛いうさぎさんを作るよ!」  眼鏡をかけた少女エリサ・パウダースノウは手袋を嵌めた手で、ゆっくりと雪をかき集めて雪玉を作る。きちんと球体になるように掌でギュッギュと押し当てて、几帳面な子だ。  「僕はネコを作ってみようかな?」  ネコは何のネコにしようかな? 白いネコじゃ家出した時に雪を色がかぶってしまうから目立つ色のネコにしよう。茶色と黒と灰色のサビネコにしよう。暖色だし。とクレバス・スタットレスは呟きながら雪を集める。色々と考えながら作るのが好きなんだろうなクレバスは。  「でもフロスティ先生、どうして雪合戦をしたり雪だるまを作ったりするの?」  雪合戦や雪だるまのルーツを知らない子供たちにとっては素朴な質問なんだろうけど、雪合戦は昔の戦争で雪だるまは墓だという事実を、伝えるべきかどうか決断が下せなかった。事実を知った子供たちは雪合戦の後シャルベットはどうなったのか、きっと知りたくなる筈だ。全てを知った時には、雪合戦で勝った国を恨んだり憎んだりするだろう。そうなると子供たちは大人になって相手の国に攻撃する人間になってしまう。逆に事実を教えなければ、大人になってぼくに噓を教えられたとぼくの事を恨むだろう。真実を伝えて子供たちを雪合戦の武器にしてしまうのと、明るい将来の為に自分が詐欺師になるのとどちらが正しいのか? 子供たちの人生はぼくの一言にかかっているなら選ぶべき答えはこうだ。  「みんなはお父さんやお母さんからなんて聞いてる?」  「ご先祖さまが不思議な力で俺たちを守ってくれるものだって聞いたよ」  「でかいのを作ればより大きな災からも守ってくれるって」  「私たちがすくすく育つように作って飾るものだって教わった!」  「そうだね、みんなのお父さんやお母さんのいう通りだよ」
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