白い墓標に弔いを

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四  教え子たちが放った雪だるまの鳩は、空中で太陽の熱で溶けると、手紙だけ遺して国中の家という家に届けられた。 しかし、手紙を読んだシャルベットの国民はフロスティの姓を見ると賛否両論に意見が別れてしまう「冬将軍の血筋なら会ってみたい!」という人もいれば「ウェンディゴの末裔、血も涙も凍らせる悪鬼の血統だ!」「ジャック・フロスティが雪合戦で活躍しなければこの国はあの時、誰かが犠牲にならずに済んだかも知れない」「冬将軍ジャック・フロスティは最後まで雪合戦を戦い抜いてくれた」と。  「先生、国のみんなはこう言ってますが俺たちは先生の事を一番知ってます。雪だるまの作りかたを丁寧に優しく教えてくれた。血も涙もない悪鬼というのは間違っています」  「そうですよ先生、国中の誰もが先生を嫌っても私たちは先生の味方です!」  「僕の両親も先生について色々言ってました。でも雪合戦があった頃と今は違う。それに先生をどう思うかは、ぼくが決める事です」  ハントたちはぼくが雪だるまと雪合戦のルーツについて伏せていた事を知ってしまったようだ。最終的に三人とも騙した事になったのにぼくを攻めずに、囃し立てる世間がおかしいと味方してくれるなんて、信じられない。  「ありがとう。本当にそれでいいのかい? ぼくはずっと三人を欺いていたんだぞ。罵らたりしてもおかしい事はない」  「確かに雪合戦のルーツを知った時には驚いたよ。それも真実なんだと思うけど、先生の事は俺たちしか知らない俺たちの真実なんだ」  「だから先生は悪くないんです。なんと言われても毅然としていて下さい」  「それと先生がどういう人かみんなわかれば、信じてくれると思います」  どうやら杞憂だったようだ。雪合戦の事を知っても誰も恨まない、誰も憎まない、自分の気持ちに正直に行動する人間になっていたなんて、あの時は考えもしなかった。  「俺、みんなに本当の事を話して来る」  ハントは再び雪をかき集め、大きく逞しい体をした白馬の雪だるまを作ると、それに跨って動かした。蹄といい、立派な鬣といい、しっかりとした筋肉といい、これまで見た雪だるまより完成度がいっとう高い。雪だるま作りもこれほどまで上達していたとは。  「私もいくっ! クレバスも行くよ!」  「わかった、ハント飛ばしていけよ!」  教え子たちは白馬に跨り、ぼくの仕事場から出ていってしまった。
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