156人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、雪だ」
私の後ろを通り過ぎる生徒たちが、窓の外の様子に気付いて話す声が聞こえてくる。
私は雪を見るふりをして、その向こうにいる彼のことをそっと見ていた。当然、窓の向こう側の彼が私に気付くことはない。
それでも私は、彼の姿を一目見れただけで幸せだった。ただそれだけで、冬の寒さも、退屈な授業も、学校で起きる嫌なことも全部消えてなくなる。彼の手の平に落ちては消えてゆく、雪の粒みたいに。
雪は徐々に速度を上げて、空から舞い落ちてくる。地面に触れては消えていく。それは、何だか少し哀しかった。
「ごめん!お待たせ」
パタパタと廊下を走る音がして、私の背中を親友がぽんっと叩く。それと同時に、次の授業の予鈴が鳴った。
あぁ、もう時間だ。そろそろ次の教室へ移動しなければいけない。
窓の向こうにいる彼も、予鈴に気付いて制服についた雪を払い始めた。
名残惜しい気持ちで彼を見つめたまま、心の中でそっと告げる。次に会えるときまでの、「さよなら」を……。
最初のコメントを投稿しよう!