蒸し暑いある日のこと

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 「今日のことは忘れなさい?」  日中の薄暗い一室、タバコをくゆらせた横顔のシルエットで、女性は言った。  僕は放心状態で、何も反応することは出来なかった。  「大丈夫?」  一糸纏わぬ身体にシャツを一枚羽織った女性は、僕に向けて煙を吹きかける。メンソールのツンとする匂いが鼻孔の奥へと広がり、一気に思考が鮮明になる。  「あの」  きっと忘れられない。忘れることは出来ない。メンソールの刺激を身体がまた求めるように、また今日の日を思い出すだろう、求めるのだろう。  しかし女性は、何も答えぬまま、フーっと煙を吐き出すだけだった。  それから数日もしない内に、女性は姿をけした。
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