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異世界に飛ばされた俺のポケットは百円ショップとつながっている
突如、地面が突き上げられるような衝撃を感じた。続いて全身が激しく揺さぶられ、あたりの棚から陳列物が崩れ落ちる。
混雑していた店の客たちが悲鳴を上げた。俺は棚を支えつつ客に避難の指示をする。
「棚のそばから離れてください! レジ前の広いスペースで身をかがめて待機を!」
必死に腕に力を込めるが、激しい横揺れで陳列棚が踊り狂う。ガラスのコップや陶磁器が撒き散らされて破砕音を響かせる。
高卒後、百円ショップで勤務していた俺だったが、仕事の最中に地震が起きるなんて初めての経験だ。ひとつひとつは安い品物だけど、ぜんぶ大切な売り物だけに、次々と壊されてゆくさまは心が痛い。
背後から巨大な影が迫りくる。気づいた瞬間、後頭部に激しい衝撃が走った。壁際に設置されていた巨大な棚が外れて倒れ、俺の頭を直撃したのだ。
薄れゆく意識の中で不思議な声が響く。
『安井与那よ、おぬしのような真摯な若者は生きなければならぬ。たとえこの世界でなくとも――』
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