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そこでメイサが必死の形相で小屋に飛び込んできた。
「ダークエルフどもら! あたしの渾身の一撃を受け――あっ、あれ?」
敵の姿がなくなった部屋を見渡してぽかんとするメイサ。俺と目が合うと茫然とした顔で尋ねた。
「まさか――ヨナがみんなやっつけちゃったの!?」
「まあな……ははっ」
顔をちょいちょいと掻きながら、百円アイテムのクオリティに感謝する俺である。メイサは瞳を潤ませ、俺に向かって駆け寄り勢いよく飛びついた。
「ヨナ、最高の救世主だよぉぉぉ!!」
「ちょっ、やめろよ恥ずかしいから!」
縛られたエルフたちが生温かい目で俺たちを見ていた。
けど、エルフってなんかいい匂いがする。甘い柑橘系の匂いだ。不覚にも心臓がどきどきしてしまう。
すると脳内にふたたびあの声が響く。
『よくぞこの危機を救ってくれた。さすがはワシが見込んだ社畜じゃわい!』
やっぱり俺は社畜とみなされ、その結果、救世主に任命されたようだ。
『それでは褒美として、おぬしの願いを叶えてしんぜよう! では――』
ギャンドゥー神は魔法の詠唱なのか、ぶつぶつとひとりごとを口走り始めた。
まさか、もとの世界に戻れるのか!? そう期待したけど――俺、願い事って聞かれたっけか?
けれど脳内で勝手にチャラリ~ンと軽やかな音楽が流れる。
『おめでたいことじゃ! 今、百円の制限が解かれ、三百円アイテムまで入手可能となったわい!』
――それ、願ってねえっつーの!!
やはり神は俺の願いなどどうでもよかったらしい。
『ではこれからも百円の僥倖を、存分に味わうがよい!』
そうしてギャンドゥー神の声は消えていった。
「ちょっと待ってよ! 俺の願いは――」
けれど腕にはりついたメイサは俺の顔を見上げ、期待に満ちた顔を浮かべていた。美白の頬を少しばかり赤らめて。
というわけで俺はまだ、この世界の救世主をしなくちゃならないらしい。
百円ショップ神の社畜として。
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