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気づくと俺は薄暗い森の小道に横たわっていた。地面がくり抜かれたように、俺の身体の形に合わせて凹んでいる。不自然だと思い身を起こして周囲を確かめる。見たこともない場所だった。
小道の奥から冷たい風が吹いてくるのを感じた。さらに草をかき分ける音がして、何者かが全速力でこちらへ向かってくる。
「はっ、はっ……」
「ウジュルル……ウガアアァァァ!」
すると肌の白い少女が剣と盾を構えた生き物に追われていた。
少女は靴を履いておらず、スカートは泥で汚れていた。しかも振り乱す白銀の髪から覗く耳は長く、人間のものとは思えなかった。
魔物は二体。二本足で走る、大きな犬のような魔物だ。
――まさか異世界なのか!?
少女は俺の姿に気づくと、すぐさま背後に身を隠した。
「そこの人間、ちょうどよかった! お願いがあるの!」
「はぁ!? 俺なんにもできないぞ! ってかあいつらなんなんだよ!」
「ダークエルフの兵隊、コボルドよ! 村が襲われて逃げてきたの!」
「まじか!」
俺を援軍だと思って警戒したのか、姿を確認するやいなや足を止め、じりじりと距離を詰めてくる。
「ウジュルウジュル、腹へっタ。……アネス様は言ったネ。逃げ出した奴は捉えテ喰ってもイイと」
ここは冗談抜きで異世界だったっぽい。
「引きつけて一発で片づけるから、すぐにあたしを連れて逃げて!」
「はぁ!?」
「だってあたし、魔法を放つと三分間、気を失っちゃうのよぉぉぉ!」
少女はドボドボと涙を流しながら背中に回り込み、両手で俺を突き飛ばした。よろけて前のめりになると、二体のコボルドがいっせいに襲いかかってきた。
――『木々の矢嵐を降らせる魔法!』
すると頭上の木々がざわめいて枝葉をコボルドに向ける。葉が鋭く変形し、豪雨のように相手に襲いかかった。
「ギャインギャイーン!」
一体のコボルドが攻撃を受けて逃げてゆく。しかしもう一体のコボルドは身をかわして攻撃をかいくぐった。
「やばっ、倒せてないぞ!」
「はうぁ~」
後ろを振り向くと少女は魂の抜けた顔でその場に倒れ込む。
――これ、一撃で倒せなかったら詰んじゃうパターンじゃん!
そう思った瞬間――魔物の動きがぴたりと止まる。木々のゆらめきも、はたと消えていた。時間が止まっていたのだ。
脳内で聞き覚えのある声が響く。
『ふおっふおっふおっ、生きていて幸いじゃったわい』
「だっ、誰だっ!?」
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