異世界に飛ばされた俺のポケットは百円ショップとつながっている

3/10
前へ
/10ページ
次へ
『わしはギャンドゥー神。とある商売の神じゃ』 「異世界転移させたのって、ギャンドゥー神のしわざかよ!?」 『そのままでは死んどったところじゃが、おぬしはすばらしき社畜じゃから救いの手を差し伸べたのじゃ』 「めっちゃ恩着せがましい神様だな。ってか俺って社畜だったのか!? 自覚がないんだが……」  俺の趣味はごまんとある百円の品物をえんえんと並べること。幾何学的に並べた時のあの達成感がたまらないんだ。 『そうだ、社畜の自覚がない者こそ最上級の社畜なのじゃ! おぬしはA5ランクの店員じゃ!』 「牛肉かよ! でも最高ランクって人生初の経験だから悪い気はしないけどっ!」 『端的に言えば、おぬしは神に選ばれた人間なのじゃ。よってわしの力の鱗片を授けよう!』  突然、俺のカーゴパンツの両ポケットがまばゆい光を発する。 『おぬしのポケットはもとの世界と繋がっている。さあ、かつての文明を用い、新たな世界の救世主となるのじゃ!』 「俺が救世主に!?」 『というわけで、まずはその少女をおぬしが救って見せよ!』  一方的に用件を押し付け、ギャンドゥー神の声は消えた。  その瞬間、時が動き出した。魔物が俺をじろりと睨む。  ――ちょっと待て、俺、丸腰だぞ? 異世界に来た瞬間、ゲームオーバーなんてありかよ!  けれど神は力を授けると言っていた。もしかしてこのポケットにチート的な力が――?  俺は慌ててカーゴパンツのポケットに両手を突っ込み、中をまさぐる。すると出てきたのは――。  こっ、これはっ!  じゃじゃん! 人気のおつまみ、『バルト海いわしのアヒージョ缶詰』!  これが救いとなるのか!? すかさずプルタブを引いて開け、その中身をぶちまける。 「これでも喰らえェェェェ!」  あたりにオリーブオイルとにんにくの香ばしい香りが広がる。魔物の視線が俺から宙を舞うバルト海いわしへと移りゆく。 「フオオオオォォ! なンだこの香りはァァァ!」  魔物は飛び上がり、バルト海いわしを華麗に口でキャッチした。 「がぶがぶがぶ……ごっくん! こりゃあ人間の百倍うめぇ!」  鼻をスンスンとしながら周りに落ちたいわしを捜し始めた。やみつきになるのは一瞬だった。  現実世界の料理の神秘にほだされたコボルドは、もはやただの野良犬にしか見えない。俺は失神した少女を抱きかかえてその場から逃げ去った。  引き離せれば匂いで尾行されることはないはず。だって、あの強烈なにおいは奴の嗅覚を麻痺させるだろうから。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加