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ダークエルフ――褐色の肌を持つ彼らはエルフと似て非なるもの。暗黒魔法を駆使して他の種族を襲ったり、あるいは裏の組織に属して暗躍したりする厄介者らしい。
「それじゃ救世主ヨナ、襲われた村まで案内するからついてきて!」
なるほど、ギャンドゥー神が「社畜」を求めていたのも理解できる。なんでも言うことを聞く便利な存在をご所望だったということか。
彼女――メイサというエルフの少女は警戒しながら森の小道を進む。
メイサの後に続いてゆくと村の裏口に出た。森の中に広がる荒地に平屋の家が立ち並んでいる。あたりはすでに薄闇に覆われていた。村は見張りのダークエルフが数人、うろうろとしている。入れ替わり立ち替わり、小屋に出入りしていた。明るく光る窓では多数の人影、いや、エルフの影が行き来する。なにが行われているのか知りたいが、距離が遠くて中はよく見えない。
「メイサ、なにがおこなわれているか見えるか?」
「うーん、遠くて無理……」
「エルフっていっても目がいいわけじゃないんだな」
「このとおり、耳は人間よりずっといいんだけどね」
耳をぴくぴくと動かすメイサ。
「もっと近づければいいんだけど……」
そこで俺はふと思いついた。ポケットに両手を突っ込み目当ての物を探し出す。
じゃじゃん! なんでも視える『ルーペ(大)』と『ルーペ(小)』!
「これはものを大きく視えるようにするレンズさ」
「すごーい! なんでそんな魔法が使えるのよ!」
メイサはそれを手に取り、近くの草葉を眺めてしきりに感心する。けれどルーペをかざして遠くを見ても風景はぼやけるだけだ。
「って、これ近くだけしか効果ないじゃん!」
「だからふたつ必要なんだよ」
両手にルーペを持ち、大きいルーペを持つ手を伸ばす。小さいルーペは目の前に掲げて照準を重ねてピントを合わせる。屈折式望遠鏡の原理だ。
ピントが合った瞬間、拡大された小屋の中がガラス越しにはっきりと見えた。数人のダークエルフが陣取ってふんぞり返り食事を堪能している。きっと奪ったやつだ。
しかも、エルフたちが縛られて一箇所に固められている。
「ちょっと、あたしにも見せて!」
「はいよ」
俺はピントを合わせた状態で彼女の背中から腕を回し、ふたつのルーペを構えて調節する。
「おおっ、すごい魔法! ほんとうにおっきく視えるよ!」
魔法じゃなくて物理現象なんだけどね。
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