異世界に飛ばされた俺のポケットは百円ショップとつながっている

6/10
前へ
/10ページ
次へ
 ただ、見ていて気づいたことがある。それはダークエルフの服装や紋章がまちまちだということだ。それはこの軍が、寄せ集めの集団であることを意味している。顔見知りばかりではないということだ。  もしも変装したら、中に紛れ込むことができるかもしれない。 「よし、ちょっくら潜入捜査してくらぁ!」 「えっ、それは無理なんじゃない? 見た目でばればれだよ」 「まぁ、神から授かった力をなめんなよ! ――いでよ、百円アイテム!」  じゃじゃん! 『仮装シリーズ第15弾、即席エルフのつけ耳』!  ハロウィンパーティー用に仕入れたやつだが、エルフが出てくるアニメが人気だから採用した新商品。売り出し中でめっちゃラッキーだ。  じゃじゃん! 『ブラウンマックス・ガングロファンデーション』!  懐かしのブーム商品企画で一瞬売られたのはナイスタイミング。露出した顔や手足だけでなく、つけ耳にもファンデーションを塗り込む。 「これで今日から俺はダークエルフ!」 「すごいクオリティね! でも服装が駄目だわ」 「それならここは――いでよ、強そうな百円アイテムよ!」  じゃじゃん! 『万能黒ゴムハンマー』! 「よし、攻撃アイテムを入手したぞ! 悪いけどひとり、犠牲になってもらおう!」  俺はポケットの中から取り出したそれをメイサに手渡す。メイサは真剣な表情になり、ハンマーを無言で受け取った。俺の意図を察したようだ。  見張りのひとりが近づいてきたところ、俺が姿を現して手招きする。 「同志よ、ちょっとこっちへ来てくれ」 「む? 見たことのないやつだな。新顔か?」 「まあな、この世界でも新顔って言うべきかな」 「はぁ?」  その瞬間、足音を消したメイサがダークエルフの背後から現れる。  ――ゴンッ!  ハンマーを構えてダークエルフの頭をあらん限りの力で殴りつけた。白目を剥いて倒れるダークエルフ。 「よくやった、メイサ!」 「どうだ、見たかざまみろ!」  茂みに引きずり込み、身ぐるみはいで手に入れた服を俺が着用する。これで遠巻きに見る分にはダークエルフと遜色ない、完璧な変装だ。 「ちょっと待って! もしもこいつが目を覚ましたらまずいんじゃない?」  メイサは横たわるダークエルフを指でさして不安そうな顔をした。たしかに目を覚まされたら、俺らの存在を仲間に知られてしまう。けれど口封じなんて恐ろしいこと、俺にはできっこない。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加