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Daisy
「ぼくのだいすきなもの」
いちねんにくみ みさきひなぎく
ぼくは、けえきがだいすきです。
けえきをはじめてたべたのは、ねんちょうさんのころでした。
それまでごはんをたべることはすきじゃなかったけど、はじめてこんなにおいしいものをたべて、ぼくはびっくりしました。おかあさんはじぶんのぶんをたべなかったから、ぼくがぜんぶたべちゃいました。
あれから、けえきはたべたことがないけど、あじをわすれたことはありません。
けえきはあまくて、おいしくて、ぼくをしあわせなきぶんにさせてくれます。えがおにしてくれます。
だから、おおきくなったら、ぼくはみんなをえがおにするけえきをつくりたいです。
***
──ぼくを……そんなめで、みないで。
あの日、教室の中心で作文を読み上げた刹那、僕は無情な世の中のカラクリを全て理解した。それは、瞼を強く引っ張られる程に。
無勢な僕は裸で、ただ晒され続けているしかないのだとあらゆる全てから囁かれているようだった。
サクラは綺麗で、快晴のそらは青くて、うみは広くてまた青いのだと。
あの目を見たくない一心で、そう言いたい口元を噤み、必死に偽りの哀しみや同調を演じてしまった。
『お揃い』を取り繕って見せるのが、いつしか日課になっていたのにも気付かずに。
──普通って何なのだろう。
心の中でそっと呟き、殻に閉じ篭もろうとする僕のことを、誰も理解してくれなかった。いや、理解しようとしてくれなかった。
それもその筈、誰も僕と同じ目線で社会を見たことがないのだから。
ただ一人、中学校に入学した際に出逢った、スミレというコイビトを除いては──。
これは今際まで歪みを刻む僕たちの、すこし不思議な物語。
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