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「ねえ、稜。あたし植物園行きたい! 温室、リニューアルして薔薇園できたんだって! 連れてってよぉ」
「ん、うん……、また今度な」
面倒だな。気乗りしないままにはぐらかそうとした俺に、葉菜子は引かなかった。
「ええ〜、早くしないと終わっちゃうよ! 期間限定なのに」
「バラくらい買ってやるよ。でっかいのは無理でも花束をさ。な、それでいいだろ?」
我儘な女。
確かにモノをねだるようなことはしないけど、むしろその方が楽でいいよ。高すぎたら却下でいいんだし、多少の金で片付くならそうして欲しい。
最近特に忙しくてそんな気にならない、ってのもあるけど、元々出掛けるの好きじゃないんだよなあ。
今日は彼女の部屋だけど、こうして互いの部屋で過ごすのがお決まりになってた。
「花束もいいけどぉ。薔薇園の良さは全然違うんだって! お願い!」
「あー、うん。まあ近いうちに」
絶対よ、約束だからね! と頬をふくらませる恋人を、はいはい、と適当にいなした。
「じゃー、俺帰るわ」
これから帰んのめんどくせえな。もう俺の部屋で会うことにしようか。
「あ、稜!」
バッグを掴んで立ち上がった俺に、葉菜子の声が掛かる。
「スマホ、ポッケに入れる癖やめなよ。また落とすよ」
うるせえな。お前は俺の母ちゃんかよ。
流石にパンツの後ろポケットにねじ込むことはしねえけど、確かに冬は上着のポケットについ入れちまってた。
……落として大騒ぎしたのも事実だけどさ。
「はいはい。わかったよ」
口先だけで答えて、俺は彼女の部屋をあとにした。
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